視えない場所

8/12
前へ
/31ページ
次へ
 ここが茨城県だということと、去年の五月にこの村で何かが起きたことはわかったけど、その何かがはっきりしないことにはここの人たちを救うことはできない。 「去年の五月。茨城県。何かあったっけ?」  必死に思い出そうとするものの、毎日毎日何かしらの事件や事故や天災が起きているから、過去の出来事はあっという間に記憶の奥の方に押しやられてしまう。  昨日も関西の方で電車の脱線事故から一年が経ったとニュースで言っていたけど、私は(そういえばそんな事故があったっけ)ぐらいにしか憶えていなかった。  どんな悲惨な出来事でも、たとえ大勢の命が奪われるような大惨事でも、時と共に忘れられていくのは仕方のないことなのかもしれない。 「ダメだ。全然思い出せない。優ちゃんは?」 「私も全然。村が丸ごと被害に遭うってことは、地震か噴火かな?」 「クソ! スマホさえ使えればな!」  四郎くんが苛立たし気にスマホを宙に掲げたけれど、相変わらず圏外のまま。  ネットに接続できないというのは致命的だ。  でも、うちのお母さんが子どもの頃はそれが当たり前の世界だった。 「そうだ! お母さん‼」  突然叫んだ私を四郎くんはビックリして見たけど、コンビニに来た他の客たちは私の方を見向きもしない。  きっと私の声なんて、彼らにとっては無限ループの日常生活に紛れ込んだ些細な雑音なのだろう。 「優ちゃんのお母さんがどうかしたの?」  四郎くんに促されて、私は彼に説明を始めた。 「えっとね、うちの一族は一言で言えば霊能力があるんだけど、その能力は各人それぞれなわけ。千差万別」 「うん、二宮家もそんな感じだよ。視える奴もいれば視えないけど追い払える奴もいる」  あ、それって薫ちゃんと一緒だ。 「で、うちのお母さんは視えるだけじゃなくて、感知能力が抜群に高いの。お母さんが子どもの頃って、今みたいにネットが普及してなかったでしょ? スマホもなかったし」  そうだねと四郎くんが相槌を打つ。 「うちのお母さんには年の離れたお姉さんがいて、すごく仲のいい姉妹だったの。それでうちのお母さんが小学生のときに、お姉さんから強い思念が送られてきたことがあったんだって。『助けて!』って。ビックリしたお母さんが婆さまに相談して、一族の者がお姉さんの元に駆けつけたら悪い霊と闘ってたの」  今でも語り草になっているその出来事から、お母さんは幼いながらも一族みんなの119番通報を受ける指令センターのような役割を担うことになったのだった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

199人が本棚に入れています
本棚に追加