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ちなみに私が死者の持ち物に触れて残留思念を追うことができるのは、うちのお母さんの感知能力を受け継いだせいだと言われている。
私自身は残念ながらお母さんほどの感知能力はないから、生者の思念を感じることはできない。
霊と会話できる伯母さんの能力の方をなぜか強く受け継いだらしい。
「凄いな。霊の存在を感知したんじゃなくて、生きてるお姉さんからのSOSをキャッチしたんだ!」
「うん。だから、私がここから助けを求めたら、お母さんに気づいてもらえるかもしれない」
茨城から東京は遠いし、この村は去年の五月に留まっているわけだけど、娘の私の思念ならきっと気づいてくれるはず。
ただし、お母さんが白玉荘の美味しいデザートに夢中になっていなければ、の話だけど。
話していたら喉が渇いてきたけれど、この村の飲み物を飲む気にはなれない。さっきのお蕎麦屋さんで出された緑茶や蕎麦湯は、ただの水よりも遥かに不味かったから。
そもそもここの物を食べたり飲んだりしたって、喉を潤すこともお腹を満たすこともできない気がする。所詮は死んでしまった村の住人たちが見続けている夢まぼろしに過ぎないんだから。
「人間って飲み食いしないで、どれぐらい持つものなんだろうね?」
「僕たちがここに来てから、どれぐらいの時間が経ったかも定かじゃないよ。数時間なのか数週間なのか……」
「そんなのって浦島太郎じゃない⁉ やだ、早くここから出なくちゃ!」
つい焦ってしまうけど、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
――お母さん! 私、変なところに来ちゃったよ。助けて‼
両手を胸の前で組み合わせ、瞼をギュッと閉じて思念を送る。
――お母さん、助けて‼
思わず噛んでいた下唇の痛みと、組んだ両手の痛みが我慢できなくなるまで、私はSOSを送り続けた。
「ふー。気づいてくれるかな?」
脱力してベンチにぐたっと背中を預けた私に、四郎くんは労わるような眼差しを向けてきたけど、「きっと大丈夫だよ」とは言ってくれなかった。
「なんか頑張った優ちゃんに水を差すようで悪いけどさ。お母さんが優ちゃんのピンチを感じ取ったとしても、何もできないんじゃないかな? 場所は特定できるかもしれないよ? 茨城県の見返り村って。でも、現実世界のその村に駆けつけても、そこに僕たちはいない。きっとね」
「だったら、あの男の人の霊に援軍を飛ばしてもらえばいい。白玉荘の庭に男の霊がいるから捜して!」
お母さんに送る思いをそのまま口に出す。
私の指の先はまた力を込めたせいで白くなっていった。
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