視える人

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 それは青天の霹靂(へきれき)だった。 「ちょっと待ってください! 私がお見合いするんですか⁉」  本家の(ばば)さまたちに呼び出されたから、また何かやらかしたかと思って青くなりながら奥座敷に座ったのに、私を待っていたのは見合い話だった。  ちなみに私が”婆さまたち”と呼んでいるのは、私の母の母の母、つまりひいおばあちゃんとその妹たちだ。  長女が一葉(かずは)で次女が双葉(ふたば)、三女が三つ葉。私以外のひ孫たちは、陰で【葉っぱ三姉妹】と呼んでいるらしい。  そのひ孫の一人であるいとこの薫ちゃんは、私と一緒に呼ばれてきたから見合い話に関してはやっぱり初耳のようで、不機嫌そうにドカッと胡坐をかいた。 「薫ちゃん、ワンピースで胡坐かいちゃダメでしょ」  思わず小声で注意したけれど、薫ちゃんはムスッとした顔で婆さまたちを睨んだままだ。 「(ゆう)ももうハタチを過ぎただろ?」  だから見合いするのは当然だと言わんばかりに、一葉ばあちゃんが私に顔を近づけた。  一葉ばあちゃんは腰が曲がって背中が丸まっているせいで、座っていてもずいぶん小さく見えるけれど、眼光が鋭くて威圧感が半端ない。 「来月の誕生日で二十一になります。けど! まだ大学を卒業してないし、結婚なんて早すぎます!」  強い眼差しを跳ね返すように、私は声を張り上げた。  冗談じゃない。誰が見合いなんかするものか。  見合いということは、婆さまたちは私の知らない誰かと私を結婚させようとしているのだ。私の気持ちなんて、丸っと無視して!  私は結婚するなら、好きな人としたい。愛し愛されて、お互いにどうしてもこの人と一緒に生きていきたいと心の底から願って結ばれたい。  ……今のところ、それは実現不可能な夢物語だけど。  チラッと横目で薫ちゃんを見た。  相変わらず綺麗な顔をしている。お肌はすべすべだし、長い髪は艶々している。  と言ってもこれはウィッグだ。薫ちゃんの地毛は短くて、何種類ものウィッグをその日の気分で使い分けている。  薫ちゃんの生物学上の性別は男だけど、ゲイだとカミングアウトしてからは女装してオネエ言葉を使うようになった。  薫ちゃんにとって私は恋愛対象外。  わかっていても、長い片思いを終わらせられないでいる。
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