視えない場所

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「洪水・土砂災害。地震の原因になるようなプレートの境目もあるみたいだな。津波や液状化の危険度も載ってる」  ハザードマップを見れば何が起きたのかわかると思ったのに、危険要因がありすぎてますますわけがわからなくなった。 「竜巻? 台風? 天災じゃなくて飛行機が墜落したとか銃の乱射事件とか。可能性がいろいろありすぎるよ」  私が頭を抱えると、四郎くんは「墜落や乱射で村の住人全員が死ぬってのはないだろう」と意外に冷静だ。  村の人口はわずか三十七人。でも、山間部で暮らす人もいれば、村の中心地で働く人もいたはずだ。  全員が一斉に被害に遭うという状況はなかなかなさそうに思うんだけど。 「ねえ、四郎くん。もしも原因がわかったとしたら、どうする?」  住民が死んだ原因が何かばかり考えて、その先のことまで考えていなかった。  猪突猛進は私の悪い癖だ。 「そうだなぁ。一人一人に言い聞かせていくなんてまどろっこしいし、時間がかかってしょうがないよな」 「うーん、でも漏れがあったらいけないよね。一人でも死んだことを自覚しない人がいたら、この村はこのまま?」 「たぶんね。そしたら僕たちもこの村から出られないままだ」 「だったら、やっぱり一人一人に言い聞かせるしかないかな」  二人で「うーん」と唸っていたら、「そんなの防災無線を使えばいいことじゃない?」と背後から薫ちゃんの声がした。  振り向くと、そこにいたのはやっぱり薫ちゃんで、夢を見ているんじゃないかと思う。 「薫ちゃん? え? 本物?」  信じられなくてウエイトレス姿の薫ちゃんの顔や髪をペタペタ触ると、薫ちゃんは私の手を払いのけて「そういうあんたこそ、本物の優よね?」と確かめるようにハグしてきた。  ああ、薫ちゃんの匂いだ! ほのかに優しい甘い香り。 「薫ちゃん、来てくれたんだ! 白玉荘で男の霊に会えたのね?」 「叔母さんが捜しだして、霊と一緒にあたしをここに送ってくれたのよ」  あいつ、どっかその辺にいるんじゃない?と呟いた薫ちゃんだけど、「ほら」と男性の霊を指差したところを見ると、この村では薫ちゃんも霊の姿が見えるらしい。  村役場の駐車場の植え込みの陰からびくびくしながらこちらを窺っているのは、白玉荘の庭にいた霊に間違いない。 「あの男だ! なんであんなところに隠れてるんだろう?」  首を傾げた四郎くんに、薫ちゃんがフンと鼻息を荒くした。 「あたしが霊を寄せ付けないようにしてるからよ。あたしはずっとこうやって優を守ってきたの。悪霊を追い払うことしかできないあんたなんかに、優は任せられない」  決然と言い放った薫ちゃんと四郎くんのと間で、バチバチと火花が散った気がした。
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