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「ふーん、あんたが辻堂の跡継ぎの薫ちゃんか。そんな格好してるけど、本当は男なんだろ?」
あー、もう!
あまりにもあっけらかんと、四郎くんは薫ちゃんの地雷を踏んだ。
「何ですって!? あんた、世の中これだけLGBTって騒がれてるのに、その言い方、配慮が足りなさすぎるんじゃない?」
「薫ちゃん、お説教は後にして、今はこの村の人たちを成仏させる方法を考えなきゃ!」
目を三角にした薫ちゃんの服の裾を引っ張った。
ここがどこで一年半前に何かが起こったらしいことをざっくり説明すると、薫ちゃんは記憶を呼び覚ますかのように宙を見上げてから、ポンと手を叩いた。
「【見返り村の悲劇】よ! 憶えてない? 大雨が降り続いて、やっと晴れたと思ったらお祭りで公園に集まってた住民たち全員が地面に飲み込まれたじゃない!」
そこまで聞いても四郎くんも私も、「そうだっけ?」と顔を見合わせるばかりだ。
「ったく! 最近の大学生はテレビなんて見ないで、自分の興味のあるネット記事しか読まないんでしょ」
呆れる薫ちゃんに二人で「すみません」と小さくなった。
薫ちゃんがちょいちょいと手招きすると、男の霊はおどおどしながら私たちの方にやってきた。
私たちが簡単に自己紹介すると、男も「俺はこの村の出身の林田と言います」と名乗った。
「林田さんはお祭りで住民たちが被害に遭ったとき、この村にいなかったんですね?」
彼だけ生者とは違う霊の姿をしているのは、そういうことだろう。
「はい。俺は東京にいて……実は服役していたんです」
林田さんがそう言うと、薫ちゃんはササッと私を背中に隠した。
本当にこういうところ、過保護だなと思うけど、ビックリしたのは薫ちゃんにも男の声が聞こえるということだ。
この村では何もかもがいつもと違うから戸惑ってしまう。
それにしても人は見かけによらないものだ。
林田さんは悪い人には見えないけど、刑務所に入っていたということは生前は凶悪な犯罪者だったのかもしれない。
四郎くんの顔もサッと引き締まった。
「地割れで幼なじみも恩師も親戚もみんな死んでしまった。出所したら墓参りに行こうと思ってたけど、まだ遺体も見つかってない人がほとんどで……」
「割れた地面が閉じてしまったからよね」
薫ちゃんがしんみりと相槌を打つ。
そういえばそんなことがあったような……。
やっと私もぼんやりとだけど、この村を襲った大惨事を思い出しつつあった。
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