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「みんなも知っての通り、俺、東京でオレオレ詐欺の受け子やって刑務所にぶち込まれてたんだ。見返り村のみんなが死んだってことニュースで知ったけど、塀の中にいる俺には花を手向けることさえできなかった。ごめんな、光彦」
マイクに屈み込むようにして語りかけていた林田さんが、涙を堪えるように天井を仰ぎ見た。その肩が小刻みに震えている。
「先週、やっと出所してさ。俺、脇坂さんを訪ねていったんだ。ほら、あの柿の実を『いくらでも食べな』って言ってくれたばあさんの息子だよ。東京で大企業の役員やってるって噂だっただろ?」
なるほどそういうことだったのか。目が合った四郎くんと頷き合う。
出所したばかりの林田さんがなぜ文京区の高級住宅街にいたのかが、ずっと引っかかっていた。
ただ、林田さんがどうして同郷の脇坂さんを訪ねたのかは、私の予想を遥かに超えていた。
「俺、ムショの中で考えたんだ。あの公園があったところにみんなの慰霊碑を建てたらいいんじゃないかって。まわりに八重桜を何本も植えてさ。また昔みたいに桜の名所になったら、死んだ村のみんなも寂しくないんじゃないかなってな。俺はそんな金持ってないけど、脇坂さんなら金出してくれるんじゃないかって思ったんだ。なのに俺、脇坂さんちに着く寸前で事故に遭って死んじまった。慰霊碑も八重桜も叶わなくなっちまったんだ。それが悔しくって哀しくって……」
また「ごめんな、光彦」と呟くように言った林田さんの目から、ポタリと涙が零れた。
林田さんが白玉荘の地縛霊となりかけていたのは、脇坂さんに会って慰霊碑を建てたいという願いが強かったからだ。
村の住民たちだけでなく林田さんを呪縛から救うにはどうすればいい?
私は彼の横に座って、林田さんに大きく頷いてみせた。
「林田さんのそのアイデア、すごくいいと思います! だから……私が脇坂さんに頼みに行きます。脇坂さんに断られたら、クラウドファンディング立ち上げます。全国に散らばってる見返り村出身の人にも呼び掛けて、SNSでも発信して……きっと、必ず! 慰霊碑立てて八重桜でいっぱいにします」
言っているうちに熱いものが込み上げてきて、最後の方は涙声になってしまった。
林田さんは涙目で私を見つめながら、何度も何度も頷いた。
きっと私の想いは林田さんだけでなく、防災無線を聴いている村人たちの心にも届いたに違いない。
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