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「まだまだ若いつもりでも、女の盛りは十六よ。それを過ぎたら老化の一途を辿る。結婚も出産も早いに越したことはない」
一葉ばあちゃんの言葉に、左右に座る妹たちも「そうだそうだ」と頷いた。
確か私も中学のときに、そんな話を聞いた憶えがある。
もちろん「結婚も出産も〜」ってところじゃなくて、女子の成長のピークが十六歳だという話だけど。
どう反論しようかと考えあぐねる私の横で、胡座から正座に座り直した薫ちゃんが口を開いた。
「優は一族の中で今、一番力を持っているのに、力を持たない並みの男と結婚させちゃったら、もったいないと思うけど?」
婆さまたちに意見するのは余程の覚悟がいる。
薫ちゃんも緊張しているせいか、声が少し上ずっていた。
薫ちゃんが援護射撃をしてくれたことは嬉しかったけれど、それ以上に私が力を持たない並みの男と結婚するのはもったいないという部分に驚いた。
裏を返せば、私には霊能力を持つ男性が相応しいと薫ちゃんは考えているってこと?
今、我が辻堂家で霊能力がわずかでもある男性は、薫ちゃんだけだ。
もしかして薫ちゃんは私と結婚する気がある?
舞い上がって自分の顔が熱くなるのを感じたけれど、それって私のことが好きだからじゃなくて辻堂家の家業のためだよね?
古くから時の権力者の下で巫女を務めてきた辻堂の家は、典型的な女系家族で男子が生まれることは滅多にない。
そして、辻堂家の女であれば霊視できる者がほとんどで、中には亡くなった本家の伯母さん(薫ちゃんの母親)や最近の私のように死者と会話できる者もいる。
薫ちゃんが霊の存在をぼんやりとでも感じることができるのは、母親の強力な力を受け継いだせいだと言われている。
そして、婆さまたちですら知らないことだけど、薫ちゃんには死者を寄せ付けない力があって、そのおかげで私は助けを求めて縋りついてくる霊たちに邪魔されることなく依頼された死者を捜すことができるのだ。
薫ちゃんとコンビを組んで死者を捜す活動を始めて丸二年。
今はおかまバーで働く薫ちゃんにとって『辻堂事務所』の仕事は副業みたいなものだけど、私が大学を卒業したら二人でこの活動を生業とする予定だ。
いつか薫ちゃんと結婚して、夫婦で人助けをするのが私の夢。
でも、薫ちゃんが仕事のために好きでもない私と結婚しようと思っているのなら、私は断固お断りだ。
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