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「ふぉっふぉっふぉっ。相変わらず薫は素直じゃないのう」
一葉ばあちゃんが変な笑い方をすれば、双葉ばあちゃんと三つ葉ばあちゃんも「ふぉっふぉっふぉっ」と不気味な笑い声でシンクロした。
「この婆が並みの男を優に娶せると思ったか? 相手は霊視能力があるだけじゃない。悪霊を地獄に追い払うことができる男じゃ。優の相手として申し分なかろう?」
自信たっぷりな一葉ばあちゃんの言葉にビックリした。
それって、もしかして……。
「まさか二宮家の? なんで今更……」
薫ちゃんが呆れたように首を振ったのも無理はない。
二宮家は元々は辻堂家と同じ先祖を持つ一族だが、関ヶ原の戦いの頃に姉と妹が仲違いしたことで二つに枝分かれしたと言われている。
姉が辻堂家の血筋を守り続け、妹が結婚して二宮と名乗るようになった。
普通に考えれば姉が本家で妹が傍流。しかし、二宮の女たちは自分たちの方が辻堂よりも上だと言い出した。
曰く、辻堂が普通の霊を天国に送っているだけなのに対して、二宮は悪霊を地獄に払ってこの世を良くしていると。
何百年も仲違いしていた二宮家と結婚によって結ばれようと考えるなんて、薫ちゃんの言う通り”今更”だと私も思う。
「今は令和の世ぞ。どっちが上かで争っていることこそ不毛じゃ」
一葉ばあちゃんがもっともらしいことを言ったと思ったら、隣の三つ葉ばあちゃんが「ウーチューブだか何だかで似非霊媒師が幅を利かすようになってから、うちの商売上がったりだからねぇ」と本音を漏らした。
要は辻堂も二宮も内情は火の車だから、この際、長年の確執は水に流して手を組もうということか。
意外にも政財界の大物たちは、未だに何かあるとスピリチュアルなものに頼ることが多い。
昔から為政者たちを陰で支えてきた二つの一族が一つになったと知れば、大口の依頼が増えることは確実だろう。
「仲直りは良いことだと思うけど、別に結婚しなくても協力し合えるだろうし、依頼だって実績を上げれば口コミで増えていくと思います。だから、お見合いは」
お断りしてください、と続けたかった私の言葉を遮るように、げほんげほんと一葉ばあちゃんが大きな咳払いをした。
「何事も経験じゃよ、優。一度会ってみて、嫌だったらおまえの口から断ればいい。見合いは今度の土曜日の正午、文京区にある白玉荘で執り行う」
「白玉荘⁉」
仰天する私に、いつの間にか擦り寄ってきていたお母さんが「めったに食べられないご馳走が待ってるわよ」と耳打ちした。
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