死者は救いを待っている

視える人

「卒業したら薫さんと二人で事務所の仕事に本腰を入れるって話だったよな？　でも、辻堂がその二宮って奴と結婚しちゃったら、薫さんとのコンビは当然解消だろ？」
「薫ちゃん、私に裏切られたって思ってるかな？　会うだけだって言ったのに……」
「断るつもりなら、最初から会う必要なんかないと思うけど？　会ってから断られた方が向こうとしちゃショックだよ」
「そうですか？　お見合い写真や釣書だけで断られたらムッとするけど、会って話してみて自分とは合わないと感じたのなら仕方ないなってなりませんか？」
「なるほど、そういう考えもあるか」
　感じ方・考え方は人それぞれだから難しい。

「薫さんのことだから、いつものように女装して見合いの席にやってきて、その二宮何とかって奴を誘惑して見合いをぶち壊しそう」
「いえ、今回はその手は通用しなさそうなんですよ」
　茅ヶ崎先輩に異を唱えた私は、薫ちゃんに見合いに乱入してほしいんだか、ほしくないんだか、自分でもよくわからない。
「茅ヶ崎先輩、陵王って聞いたことあります？」
「ないけど、何？」
「陵王って、二宮四郎のファンがつけた彼のアダ名です。陵王は昔の中国の皇帝の四男で勇猛果敢な名将だったんだけど、あまりの美貌に兵士たちが見惚れて士気が上がらなかったもんだから獰猛な仮面をつけて出陣したんですって」
　私もつい昨日、ネットで検索して知ったことを茅ヶ崎先輩に説明した。

　ネット上には二宮四郎の口コミが溢れるほどあるのに、四郎の顔は目元をベネチアンマスクで覆っている写真でしか見ることができない。
　その下の素顔を見たことがあるのは家族や小中高時代の同級生たちと歴代の彼女たち。
　彼らが口を揃えて「ものすごい美貌の持ち主」だと言うものだから、素顔を見たことのないファンたちが陵王だなんて持ち上げているらしい。
　で、それを知った薫ちゃんがまた不機嫌になっちゃって……。
「つまり、辻堂の見合い相手は薫さん以上の美形ってわけか。それじゃあ、薫さんも打つ手無しだな」
「薫ちゃんより四郎の方が美形だなんてわからないですよ！　案外、マスクを取ったらすっごい不細工なのかもしれないし。薫ちゃんよりも綺麗な男の人なんて、私、未だかつて見たことがないですもん」
　私が思わずムッとしたら、茅ヶ崎先輩に笑われてしまった。「辻堂の見合い、面白くなりそうだな」だって。
　こっちは大変なのに、他人事だと思って！