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「私にとっていい話? なんで?」
「だって辻堂にいたら優ちゃんはヒヨッコ扱いで、大きな案件は任せてもらえないじゃない。その点、四郎は優ちゃんと同い年なのに凄い実績を上げてるでしょ? それって二宮家は四男だろうが若輩者だろうが関係なく機会を与えてるってことだよね」
紗奈ちゃんの話に「あ、そっか」と呟くと、「はい、出来上がり」と手鏡を持たされた。
合わせ鏡で確認すると、後頭部の編み込みが小さな花で可愛くアレンジされている。
「紗奈ちゃん、ありがとう! さすがプロだね!」
「どういたしまして。ちゃんと婆さまから技術料もらってるからね。あれ? 薫ちゃん」
え? 薫ちゃん?
紗奈ちゃんの視線を辿ると、脇の襖から薫ちゃんが覗いているのが見えた。
ここ本家は薫ちゃんの実家だから、薫ちゃんがうろちょろしていてもおかしくないけど。
もしかして今の話、聞いてた? 四郎との結婚は私にとって悪い話じゃないってところ。
薫ちゃんがまた変に誤解しないといいんだけど。
「薫ちゃん、どうよ! 優ちゃんが美人になったでしょ!」
自慢気に胸を反らせた紗奈ちゃんに、薫ちゃんは「優は元々美人よ」と言ってくれた。
「あー、そうやって並ぶとやっぱり薫ちゃんと似てるね。優ちゃんもいつもバッチリメイクすればいいのに」
「優は寝坊すけだから、朝そんな余裕ないわよね?」
さすが相棒はよくわかっていらっしゃる。
「そう。メイクのために早起きするぐらいなら、スッピンでいいからその分寝てたいよ」
「ほらね」
まったくしょうがないわねと笑いながら、私の頭を撫でようとした薫ちゃんの手は宙で止まった。
「せっかく綺麗にしたんだから、崩さないでよ!」
紗奈ちゃんに注意された薫ちゃんは、「崩さないわよ」と手をプラプラ振った。
本家の門の前でお父さんの車に乗り込む私を、婆さまたちと紗奈ちゃんと薫ちゃんが見送ってくれた。
紗奈ちゃんは「打倒! 陵王!」と拳を突き上げたけど、薫ちゃんは嘘っぽい微笑みを浮かべている。
何だろう、あの顔。何かを企んでいるみたい……。
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