落ちたから拾っただけ

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 最近のコインランドリーは、すげえ。  煤けたテント看板とすっかり黄ばんだ洗濯機がひしめく店内……なんてのはもはやフィクションの中だけの光景になりつつあるらしい。小洒落たカフェみたいな外観に、ピカピカの洗濯機が整然と並ぶ店内にはWi-Fiも飛んでいて、なんならもうここに住めばいいんじゃねえか……とさえ思う。漫画の世界じゃあるまいし、さすがにドラムの中に入って身体を洗うわけにはいかないんだけども。    コインランドリーに足を踏み入れたのは、実はこれが二度目だった。  俺のコインランドリーバージンは、男友達に付き合って、そいつを振った彼女が家に忘れていったパーカーを洗うところを見届けたときに捨てた。パーカーに彼女の残り香があって捨てられないとかしみったれたことを言うから「だったらせめて洗ってニオイ消せや」と(けしか)けたのだ。その時に(最近のコインランドリーってすげえな)と思ったからこそ、俺は今こうして溜まった洗濯物を抱えているわけである。    マゴマゴしているのを他人に見られるのがなんとなく嫌で、真夜中にえっちらおっちらと近所のコインランドリーへやってきた。いつもそこそこ混んでいて、普段は目の前を通り過ぎるだけだったが、さすがに深い時間になると先客は誰もいなかった。多少操作に戸惑ったところで恥ずかしいこともない。  そして手前側の「01」から順に「08」まで番号が振られている洗濯機は一台も稼働しておらず、選び放題だ。  なんとなく一番奥にある「08」を選ぶことにした俺は、洗濯カゴを引きずるように店の中へ進み入った。たちまち頭の芯がしびれそうな、洗剤のにおいにまかれる。どこかで嗅いだな……と考え、さらに巡らせるまでもなくすぐに思い出した。  ほらな、やっぱあいつも盲目だったんだよ。彼女のにおいなんかじゃなくて柔軟剤かなんかのにおいだったんだ、どうせ。  もっともそんなこといちいち言うのも野暮ってもんだ。実際に言っちゃったとき「お前がいいやつなのにモテない理由、分かった気がするぞ」って言われたし。
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