ペン入れ

5/5
前へ
/14ページ
次へ
その日以降、彼女の姿は見なくなった。 ひーちゃんのことは心配だけど、 安堵していた自分がいたのも事実だった。 彼女がいないことで、実力差を思い知らされなくなったし、 なにより、自分の絵に集中することができた。 だけど、心にブレーキがかかったように、 思うように筆は走らなかった。 描き出しに迷い、途中でも手を止める。 そんな日が続いていた。 もはや、何のために努力しているのか分からない。 このままではいけない。 それだけが、分かっていた。 ある日、今日も授業を終えて教室を出ると、 受付に彼女の姿があった。 今から授業なわけはない。 「お世話になりました」 彼女はそう言って、受付の人へと頭を下げる。 じっと見つめていた私に気づき、 「じゃあね、あやちゃん」 そう言い残して、彼女はこの予備校から出ていった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加