仕上げ

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仕上げ

とっさに、ひーちゃんの後を追う。 どんな顔をすればいいのだろうか。 わからない。 だけど、振り返った彼女の顔は笑っていた。 悲しさを噛み締めて、悔しさを噛み締めて、飲み込んで、 納得なんてしていない、表面だけ取り繕った顔で微笑んでいた。 「あやちゃんの描く絵、すっごい好きだった」 傷ついて、ボロボロのはずなのに。 どうして、私を励ますのか。 私を罵ればいいのに。彼女はそうしない。それが辛い。 「私だって、すっごい好きだった。真似できないくらい上手で、  なにより、羨ましかった」 彼女の絵は、見るたびに、自分を否定されたような気がしていた。 自分の醜い感情が浮かんで来て、 そんな気持ちになる自分が嫌だった。 でも、嫌いなわけじゃない。 私はその絵を見て、羨ましくて、 胸の中がどうにかなりそうなくらい、 心を鷲掴みにされていた。 感動させられていた。 彼女の絵を認めていた。 「だったら、どうして、みんな私の絵を見て、苦しそうな顔をするの。  私は誰かを幸せにするために、絵を描きたかっただけなのに。  みんなを悲しませるだけなら、絵なんて描きたくない」 悪いのは全部私だ。 本当はそんなことないのに、彼女に勘違いさせてしまった。 圧倒的な才能に、手も足もでないくらい打ちのめされて、 ただそれに及ばない自分を嫌っていただけ。 自分の気持ちに素直にならなかったのがいけなかった。 だけど、そんなことできなかった。 簡単に素直になれるはずない。 「それは、みんな嫉妬してたいだけで……。けど、  そんなの気にせずに、ひーちゃんは、好きに描いたらいいじゃん。  描くのは辞められないくせに」 私は、言いたいことを全部吐き出して、息を切らしていた。
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