ネーム

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受付を済ませ、案内された二階の教室へ赴く。 その部屋の外にまで、賑やかな笑い声は漏れていた。 陽気な空気に気圧されて、馴染めるかどうか不安になる。 絵描きはみんな、内気でおとなしい人だと思っていた。 なのに、これでは学校と大差ない。 しばらくすると、二人の先生が階段を上がってきた。 教室がしんと静まる。 切り替えの早さに感心する。 やるときはやる。こういう雰囲気は悪くない。 一人の先生は、画用紙と紙コップを配り、 もう一人は、ホワイトボードの前に立った。 「こんにちは」 すらりと背の高い、だけど少し胡散臭そうな感じの先生だった。 「さっそく、クラス替え試験を行います。  モチーフは紙コップ。デッサンしてください。制限時間は50分」 深呼吸をしてから、真白のキャンバスと向き合う。 紙コップをしっかりと観察し、紙の上に鉛筆を走らせる。 何度も繰り返してきた作業だ。 このモチーフも初めてではない。 鉛筆の芯と紙の擦れる音が、教室を支配している。 その軽快なリズムが焦燥心を掻き立てる。 負けてやるもんか。 その一心で、必死に手を動かした。 先生の合図で、試験は終了する。 ホワイトボードの中央には縦線が引かれ、 その左側にB、右側にAと書かれていた。 デッサン力の低い絵から、Bの方に貼られていく。 同時に十分な力量をもった作品もAの方に貼られていった。 しかしながら、その中に私の作品はない。 そして、Bクラスの枠がわずかになると、一人の生徒が立ち上がった。 「先生、俺たち一緒にAクラスにしてくれよ」 体をくねらせて嘆願する姿に、どっと笑いが起こる。 私は笑えなかった。 だけど、その願いが聞き入れられたのか、彼らの絵はAに貼られる。 正直、彼らの絵より私の方が上手だったはずだ。 しかし、胡散臭そうな先生は私の絵をBに貼った。
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