下書き

1/3
前へ
/14ページ
次へ

下書き

「あれ、絶対に気分で選んでる」 授業が終わり、個人面談に呼ばれた私は、 担当の田島(たじま)先生に不満をぶつけていた。 試験のときに紙コップを配っていた先生である。 「気になるのも分かるけどね。若竹(わかたけ)先生は、絵に嘘はつかないよ」 「へぇ、かばうんだ」 私の必死な訴えに、先生がまともに取り合う気配はない。 それもこれも、手元の資料に集中しているからだろう。 それは入学時に提出した書類と、今回の作品だった。 しばらくして、先生は顔をあげた。 「君はどうして絵を描くのかな」 「漫画家になりたいからです」 私の夢は、昔から変わっていない。 「なら漫画家になれたら、描くのを辞めるの」 「えっ、辞めるわけありません」 「だったら、漫画家になった後のモチベーションは何」 「えっと、それは……」 思考が停滞する。 夢を見つめて走ってきたけど、漫画家になって何をしたいんだろう。 お金がほしいのだろうか。 それはちょっと、違う気がする。 「ごめん。意地悪なことを言ったね」 先生は気にしないで、と優しく言ってくれたが、思いの外ショックは大きかった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加