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ペン入れ
相変わらず教室は、賑やかさを失っていなかった。
それから、試験を受ける人数も若干増えていた。
だけど、周りの人との交流が少ない私にとって、
誰が増えたのかはわからなかった。
二人の先生が教室にやってくる。
教室がしんと静まり、緊張感で満たされる。
今回のモチーフは、『丸めた紙』だった。
この3ヶ月の努力の成果、全力を出し切った。
先生がホワイトボードに作品を並べる。
すると、若竹先生が驚いて目を丸くする。
「これは」
初めて見る先生の反応。
一体、どんな作品なのか、
誰の作品なのか、期待が高まる。
その作品は、最初のAクラスだった。
若竹先生の口がゆっくりと開く。
「白花ひかりさん。素晴らしい」
みんなの視線が、その画用紙に注がれる。
「あぁ」
思わず感嘆の声が漏れる。
こんな絵は見たことない。
今回の正解がそこにあった。
確認するように、自分のモチーフを観察する。
だけど、何かがおかしい。
そこに何かが足りない。
手に握った丸めた紙には、らしさがなかった。
通常、この手のデッサンには正解がない。
百枚の紙があれば、百通りの丸め方があるからだ。
そんなあやふやなものを完全には表現できないはずなのに。
彼女のデッサンは、その唯一の模範解答だった。
手元の紙を丸めなおしてみるが、彼女の絵以上の『丸めた紙』には、
何度やっても到達しない。
彼女はらしさを完璧に表現していた。
言わば、彼女のがその画用紙に正確に写し取ったものは、
『丸めた紙』という概念だった。
彼女の作品は、絵に違いないのに、明らかに二次元以上の情報を含んでいた。
文字通り、私達とは次元が違ったのだ。
周りの人も、実物と彼女の絵を何度も見比べていたが、
しばらくすると、視線は別の場所へと注がれるようになった。
その絵を描いた本人の方へ。
それはさっき、先生が名前を呼んだ、白花ひかり。
そこにいたのは、記憶の深い場所に沈んでいた人影。
昔の親友、ひーちゃんだった。
彼女に対する長い拍手が終わり、クラス替え発表が再開する。
私はやっとAクラスになれたのに、求めていた達成感は得られない。
心に残っていたのは、敵わないという、
どうしようもなく腑に落ちない、敗北感だけだ。
こんな再会は望んでいなかった。
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