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予備校が終わると、私はすぐに帰る準備を整えた。
あの絵のことを考えてしまうと、私の中の何かが壊れてしまう。
今まで積み上げてきたものが、台無しにされてしまうそんな気がした。
だから、この場所から早く逃げ出したかった。
心を落ち着かせるために、足早に教室を出る。
予備校の建物から出たとき、
「あやちゃん……」
後ろから、呼び止める声がした。
私のことをそう呼ぶのは一人しかいない。
振り返らずに返事する。
「なに。ひかりちゃん」
「やっぱり、あやちゃんだ。何年ぶりかな」
彼女は駆け足で私の前に回り込む。
ニコニコして、私とは違って、再会を喜んでいるようだ。
「四年くらいかな」
「超久しぶりだね。このあと、時間ある?」
「ない」
即答してしまう。
特に今は、彼女と話したくないから。
「そっ、そうだよね。夜も遅いし……。同じ予備校なら、また会えるし」
突き放して、気を使わせてしまった。
「うん。親が家で待っているから」
この重苦しい感情と向き合うと、深い井戸を覗くような恐ろしさがあった。
怖くなった私は、自分を落ち着かせるために、その井戸に蓋をする。
じゃあ、といって私はその場を後にした。
一度も振り返らずに、逃げるように。
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