うつくしい墓標

1/1
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

うつくしい墓標

 墓石にファーストネームを彫りたかった。  勝手にキリスト教式の墓を造った理由はほかにもあるが、もっとも大きいのはそれだ。  わたしも璃莉(りり)もクリスチャンではないため、受け入れてくれる墓地を探すのに苦労したし、なんだかんだとお金もかかった。それでも璃莉の名前の刻まれた墓がどうしてもほしかった。  刻む文字は、悩んだ挙げ句にLILYとした。誰が見てもガイジンの墓、という仕上がりにわたしは満足した。  璃莉が知ったら怒るかもしれない。が、まあ死人が怒ろうと知ったことじゃないし、このくらいは許されてしかるべきだ。  わたしは璃莉を見送った。  璃莉さえいれば何もいらないと思っていたきもちを捨て、  自分の望むとおりのかたちで死んでいく璃莉を見送って、  璃莉を愛するかわりに、美しい名の刻まれた墓を愛して、  そうしてこれから生きていかねばならないのだから、このくらいは許されてしかるべきだ。 A monument of my sweetie おやすみ、いとしい人
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!