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きみの見捨てた光について
そこには一匹のきんいろの魚が
飼われていた。全長が小指ほども
ない魚だが、大きなひれが水にた
ゆたうさまが美しかった。水槽の
底で寝そべるようにして寿命を迎
えたその魚を、壱歌は網で掬い上
げマンションの裏地に埋めた。数
センチの浅い穴を掘り、それはそ
れは丁寧に埋葬した。そして住む
者のいなくなった水槽は、どうい
うわけか窓辺にそのまま放置され
た。あんなに手厚く魚を埋めたは
ずの壱歌は、それきり一切の興味
を失ったとばかりに、残された水
槽に見向きもしなくなった。透明
だったはずの水は、日に日に嵩を
減らしながら濁っていった。わた
しはキーリングからこの部屋の鍵
を外し、腐った水の中に(まるで
わたしの羊水のようなそれの中に)
そっと沈めた。魚に名前をつけた
のはたしか壱歌ではなくあの男で、
なんという名だったか、聞い
たはずだが思い出せない。
壱歌がわたしの名前
を呼ばなくなっ
たのと同じだ
ろうか。そ
れももう、
今となっ
てはど
うで
もい
いこ
と
だ
。
Poor things
せめてきれいに忘れて
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