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いつくしみふかき
空が暗くなってきたから、雨が降るねって言ったんだ。
璃莉は「そうだね」って答えて、わたしの肩に頬をすりつけた。
なにもなくなった部屋はとても広く見えた。剥げたアイボリーの壁紙。レモン色のカーテンも外されてしまった。割れた窓から入ってくる風はなんの抵抗も受けていなくて、しっとりとした冷たさにやわらかく肌を撫でられた。
並んでもたれかかった壁から、慌ただしい足音が震動になって伝わってくる。知らない人の怒鳴る声も聞こえる。でもわたしたちは誰にも見つかることはない。世界がもうすぐ終わる、こんなときに、誰もわたしたちを探したりしない。
「ねむいの?」
腕を絡め、ぴったりと身を寄せてくる璃莉に、そっとたずねる。顔を見れば、淡い色素の長いまつげが、今にも頬に伏せってしまいそうだ。
「ねむいよ。壱歌はねむくないの」
「雨が降ればきっと静かになるよ」
そうしたらふたりで少しねむってもいいね。もう目を覚ます必要だってない。
風が強くなってきて、外はうるさいけれど、なにもなくなった部屋は広くて、ふたりきりで。気分がよかったから、ねえここはとても居心地がいいねって言ったんだ。
璃莉は「そうだね」って答えて目を瞑った。璃莉とふれあっているからだの左側だけがあたたかい。
もうすぐ世界が終わる。
ふたりでそれを待つ。
わたしたちを許さなかった世界が、
ああ。やっと終わる。
A song
つみ、とが、うれいをとりさりたもう
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