夏の嘘

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 補修が始まってから三〇分以上が経っているが、ほとんど前を向いていない。 シャーペンを回しながら、白紙のノートに視線を落とす。炭酸水みたいなセミの鳴き声が聞こえてくる。大きな欠伸が出た。教壇に立つ、村雨の活舌の悪い口調で読み上げられる英文が右から左へ流れて消える。開いているだけの教科書に目を落とす。 「ねえ、なんで原田、補修なんか受けてるの?」隣の席の山口が話しかけてきた。 「テストで赤点だったからに決まってんだろ」目を合わせずに答える。 「原田、英語いつも成績いいじゃん」 「今回はあんまり勉強してなかったんだよ」 「英語だけ? 他はみんな八〇点以上なのに?」
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