エピローグ

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 二宮 崇(にのみや たかし)は高校1年生から、野球の強豪校である、長野県の私立高校に転校した。それまでは地元の強豪中学校にいたが、東京都の学校進学する限り、全国から強い選手が集まり、レギュラーのポジションにはつけないと考えたからだ。  佐久にあるその私立高校は他のスポーツにも力を入れて、地元の生徒も全寮制になっている。帰宅できるのは週末のみだ。    崇の自宅は東京のはずれにある光が丘。戻れれば毎週土曜日の練習後に自宅に帰り、日曜日の点呼前にに寮に戻る。大抵は練習があるので戻れない。  自宅に帰る場合、自宅への往復にはもっぱら高速バスを利用している。近くの佐久平の駅から高速バスが出る。バスタ新宿行きに乗ると途中、練馬駅で停車する。このバスに乗り、練馬で降りて地下鉄大江戸線で自宅のある光が丘に向かう。駅までは母親が迎えに来てくれている。  新幹線でもよいが、駅からの距離が中途半端になることと、新幹線ではお金がかかる。高速バスの約3倍かかるのだ。圏外の私立高校に行かせてもらった上に寮費もかかる。  高速バスは時間がかかるとはいえ、交通費を考えると崇もわがままを言うつもりはかった。    三沢 葵(みさわ あおい)は地元の公立中学校から一番近所にある私立高校に進学した。元々田舎の高校選びは公立が当たり前である。  私立に入るのはスポーツが秀でているか、勉強が特に秀でているか、勉強ができないので入るのかの3択だ。  葵は勉強に特化した生徒だった。他の公立高校でもよかったのだが、その場合、電車やバスの乗り継ぎなど、田舎ならではの不便さがある。  近くの公立高校でも以外と距離があるのだ。  葵の家は近隣では大きな建設会社の社長をしている。佐久平の駅周辺は今だ開発中の土地が沢山あり、葵の家も建設にかかわっている。父はいつも忙しく葵の相手などする暇もない。  葵の母は葵が地元の中学校に入った年に突然の心臓発作で亡くなってしまった。  突然の事だったので、3年たった今でも葵の心は傷ついたままだった。  中学校までは給食もあるし、近所の親せきが家の事を手伝ってくれていたので不自由はなかったが、やはり、母親がいないのは葵には大きな苦痛だった。  高校生にもなったらいつまでも親戚に頼っているのも嫌だった。父は家のことなど、なにも気にしていない様子だ。  そこで、希望者が入れる寮のある学校を選んだ。それも徒歩でも行かれる私立高校を選んだ。いっそのことみんなが親といない環境の方が落ち着くと思ったのだ。自宅からでは中学校の延長になってしまうから。  近くにしたのは父親を安心させるためと、寮のある高校はここにしかないからだ。  入学式当日。クラス編成の貼り紙を見て、二宮 崇と三沢 葵は2組に入っていった。座席には名簿順に名前が貼ってあり、そこに座るよう定められていた。男女関係なく名簿順に座っていった。  たまたま崇と葵の席は隣りになった。  崇も葵もお互い知らない同士が、高校からの編入で緊張していた。  この学校は中学校からあるので、中学からそのまま進学してくる生徒も多数いる。中学から来た生徒同士は離れた席でも自由に移動して話をしている。  葵は中学校が地元だけに友人は殆ど地元の公立高校に入っている。元々性格が活発な葵は、このだんまりでいる時間がとても苦痛に思えた。地元だったので寮へもぎりぎりの時期に入った。その為、寮の顔見知りもいなかった。    崇は当然東京からの編入なので知り合いはいないが、寮で、野球部の何人かに会っているので、一応クラスの中には顔見知りもいた。  葵は隣りに座った坊主頭から、彼が野球部であることを何となく察した。たぶん越境で編入した来たんだ。何か話しかけてくれればいいのに。と自分勝手に思った。  崇は隣りに座った大人しそうなサラサラな黒髪の色白で華奢な少女にちょっと見とれていた。でも、放課後の部活動の方に考えが飛んでしまい、女子とはあまり話したこともないので、そのまま野球の事を考えていた。  
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