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クリスマス
時は少し戻り、十二月二十三日。
月麦は陸からの連絡を受け取った。
『クリスマスの日予定入ってる?』
陸との出会いは幼稚園の頃。泣いている陸に月麦が声をかけたのが始まりだった。
陸は昔から人懐っこい性格で、くりくりとした目と綺麗な茶髪を持つまるで子犬みたいな男の子だ。
『ううん、入ってない』
『じゃあさ、僕と一緒にイルミネーション見に行かない?』
『うん、いいよ』
『やった!嬉しい(^^)六時に駅に待ち合わせで!』
『了解!』
『楽しみにしてるね!』
陸と月麦は決して付き合っているわけではなく、ただの幼馴染だ。しかし、月麦は陸を自分の弟のように思っている。
陸は小さい頃、月麦よりも背が低く、月麦によく面倒を見てもらっていた。だから月麦は陸を弟のように見ていたし、陸は月麦を本当のお姉ちゃんだと思っていた。月麦は月麦と陸が幼馴染であると最初からわかっていたが、陸は月麦が血縁関係のない同い年だと理解した時、大泣きしていた。
その時、陸に何か言われたような気がするが、月麦はもうそれを覚えていない。
ーーーークリスマス当日。
月麦は待ち合わせ時間より少し早く駅に着く。
この日は、クリスマスということもあり、街を歩く人々はどこか浮き足だっていた。
街にはクリスマス音楽が流れ、あちこちのお店でクリスマス関連の物が売られている。
月麦は昔、クリスマスに食べるシュトーレンが大好きだった。ドライフルーツの酸味にナッツの食感、雪のような粉砂糖。年に一度しか食べれない特別な感じが、その美味しさを増大させる。久しぶりに食べたいなと思っていると、陸が現れた。
「お待たせ!」
「ううん、私も今来たところ」
「そっか!じゃあ行こ!!」
二人は歩き出した。不思議なもので、これだけ一緒にいると歩むペースはいつも同じになる。
「今日行くところのツリーはね、時間が経つごとに少しずつ色が変わっていくんだって!」
「へぇ!すごい!」
「多分、今はオレンジくらいかな?」
「楽しみだね」
「うん!」
イルミネーションの付近には大勢の人がいて、人の流れに月麦は負けそうになっていた。
「凄い人だね」
「うん、僕から離れないでよ〜」
「わかった」
少しずつ人がばらけツリーのすぐそばまで行けるようになると、陸はスマホを取り出して写真を撮り出した。
「ほら、月麦も写って!」
「え?私も?」
「もちろん!!」
陸は流行りに敏感だし、情報を掴むのも早い。そのおかげで月麦は色々な場所に訪れられているし、月麦のスマホのアルバムには定期的に写真が更新される。だから、よく遊びに連れ出してくれる陸に、月麦はものすごく感謝していた。
何も隠そう、月麦には友達が少ない。というか、陸以外友達と言える友達はいない。
それでも、月麦が時代についていけているのは陸のおかげなのだ。
「陸、連れてきてくれてありがとね」
「いえ!僕の方こそついてきてくれてありがとう!」
月麦と陸はイルミネーションが続く道を歩く。
しばらく経つとオレンジ色だったイルミネーションが黄色へと変わる。それは幻想的で、とても美しかった。
イルミネーション並木の終わりには大きなホワイトツリーが飾られていた。
「このツリーを見たかったんだ」
陸の目はホワイトツリーの明かりが反射してキラキラと輝いていた。
「月麦とクリスマスを過ごせて、僕幸せ」
「中学の時はいつも試合だったもんね」
「うん」
陸は月麦の方を振り返る。
「ねぇ、月麦?」
「うん?」
「僕、」
陸はそう言うと、息をたくさん吸い込んで言った。
「すごく楽しい!!」
陸は大きく目を見開いて、瞬きもせずに月麦を見つめてくる。陸は昔から楽しいと思った時にはまるでリズムを取るように体を揺らす。そして、白い歯を見せて思いっきり笑う。
うん。知ってるよ。陸が楽しんでいる事くらい。見てればわかるもの。
月麦は思ったが、それを言わずに、
「それは良かった!」
そう言い、にっこりと微笑んだ。
それを聞いて、陸は大きく口を開けて喜んだ後、もう一度にっこりと笑い返した。
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