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それから三日ほど、いつもと変わらない生活が続いた。が、ある日、朝いつものように席に座っていると、綾音が教室に駆け込んできた。
「あ!!月麦ーーーーー!!!」
「わあ!ど、どうしたんですか?そんなに慌てて」
「良かった!来てたんだ。何してんの?」
「一限のテスト勉強です」
「え?一限テスト!?いや、それよりもやばい話があるの!!」
「なんですか?」
「風汰君とデートに行けることになった!」
「良かったじゃないですか!」
「いや、良かった。うん、良かったんだけど…」
綾菜の声のボリュームは小さくなり、目が少しだけ泳いだ。
「風汰君に今度遊園地に行こって言ったら、二人で?って聞かれて、そうだよ!って言えなくて…」
綾菜の徐々に遅くなる声を聞いて、月麦はすごく嫌な予感がした。
「月麦も誘ってみんなで行こうって言っちゃった…」
「三人でですか?」
「まさか!月麦は陸くんを誘ってくれればいいよ」
「え、陸?」
「うん。だって、月麦が仲のいい男の子他に知らないし…」
それもそうだ。月麦には女友達すら少ないのに、男友達なんているわけない。
「それはそうですけど…」
陸はいつも風汰のことを『あいつ』呼びしていて、あまり好いてはいない。月麦は陸が機嫌を損ねないかが心配だった。いや、でもこれは二人をくっつけるためのもの。陸だってわかってくれるはずだ。
「やっぱりダメ、かな?」
「いえ。行きましょう」
「本当に!いいの!」
「はい。陸には私から話しておきます」
「神〜!!ありがとう!!」
綾菜がこの後のテストでボロボロだったことは言うまでもない。でも、綾菜はその日一日、わたあめみたいに気分がふわふわして、甘い気持ちで心がいっぱいだった。
ーーー放課後の帰り道。今日は部活がない陸と一緒に帰る日だ。月麦は今朝の話をする。
「…ってことがあったんだけど」
月麦の予想通り、陸はむすっとした顔をする。
「俺と月麦と山﨑さんとあいつでダブルデート?」
「ダブルデートではないよ。ただ、遊びに行くだけ」
「ダブルデートなの!これは!」
「あー、はいはい。そうだね」
「あー!今どうでもいいなって思ったでしょ!?」
「思ってないよ。それで、行くの?行かないの?」
「行くけどさ〜。ねぇ、月麦?月麦さ、山﨑に利用されてない?」
「え?」
「だって、あいつずーっと自分の話してるでしょ?今回のだって本当は行きたくないんじゃないの?」
「それは…」
「図星?」
「うーん、たしかに側から見れば利用されてると思う。私」
「でしょ?」
「でも、綾菜さんのことはもっと知りたいと思ってるんだよね。なんとなくの性格とかは知ってるけど、話さないとわからない事もあるって言うか…」
「いや、月麦は他の人との会話見てれば全部わかるじゃん」
「まぁそうなんだけど。でも、その、私にしか見せない一面?とかもあるかもしれないじゃん?」
「人と話すの苦手なくせに、やけにポジティブシンキングだね。人に嫌われなければ良いと思ってるんじゃないの?」
「そうだよ。好かれる必要なんてないと思ってる。でも!そういう時もあるの」
「ふーん」
「まぁとにかく、陸が遊園地行くって言ってくれて良かった。ありがとう」
「僕は月麦が利用されないために行くんだからね!」
「はいはい」
正直、陸に行かないと言われたら綾音に合わせる顔がなかったので、月麦はほっとした。にしても、月麦が綾菜に利用されていると思っていたのはなんとなくわかっていたが、わざわざ言ってくるとは驚きだった。相当心配してくれてたみたいだ。でも、月麦が陸に言ったことは本心だった。話さなければわからない事もきっとあるのだ。風汰だってそうだったし。
それから遊園地の日まではあっという間だった。綾菜は服やら髪型やらプランやら色々考えていたが、月麦にできることは綾菜を応援することだけだった。
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