ヒカルタマ

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 私はある山奥で今日もいつもと変わらず、決まった時間に決まった作業を行う。私が行っているのはひどく単調な作業だ。ただ、繰り返し繰り返し行う作業。それに対して何か思う事があるわけではなく、当たり前の様にそれをこなしていく。 「欲深い人間は災いをもたらすのだ。何かを欲すればそこに争いが生まれる。争いは奪い合いに変わり、狂気が生まれ、世の中に変質を起こさせる。平和を維持させる為には強欲な人間が出ないようにしなければならん」  幼い時からそう言い聞かされていた。私はある特殊な家に生まれた。我々一族は世界のバランスを保つ使命を与えられている。誰に与えられているのかは教えられてはいないが、人類の枠を超えた存在の者からだろうとは予測がついている。  どのような事を行っているかというと、先程の言葉にもあるように強い欲望を持っている者たちから、それを取り除いている。そうする事で人々を均質化し、世の中のバランスをとっているのだ。突出した者は均衡を崩し、災いをもたらす。  その使命を全うする為に一族の直系者に与えられた力が三つあり、一つは強欲な者を見つけ出す『眼』、一つは欲を削ぎ落とす『念』、最後の一つは欲を物質的に管理出来る『手』だった。  目を瞑りそのまぶたの裏の暗闇を見つめていると、この世界のどこにいようと強欲な者を見つけ出すことが出来る。そして、その者に対して強く念じれば欲を削ぎ落とす事が出来るのだ。削ぎ落とされた欲の塊を我々の住む、世界の片隅にある山奥へと『手』の力で運んでくる。  欲を削ぎ落とされた者は今までの野望を忘れ、単調に日々の生活を送るようになる。つまり競争、争いを起こすきっかけを失うというわけだ。  そういった一族の使命において、私はまだまだ見習いの立場であることからもっぱら欲の管理を行なっている。私より上の世代の能力者がこの山奥に飛ばしてきた欲の塊を古びた遺跡のような祠へしまう役割である。『手』の力はそこまでの精度はなく欲の塊をこの山奥に飛ばすだけで精一杯で、山のあちらこちらへ飛ばされてくる。それを『眼』を使い探し出し、瀬戸物で出来た骨壺のような容器に入れて祠で管理する。欲はその強さによって数年から数十年かけて消滅していく。中には数百年経っても消滅しない強烈な欲も存在するのだという。  
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