1 『終わったはずの××』

1/1
前へ
/10ページ
次へ

1 『終わったはずの××』

 スピーカーから流れ出す、Nobody's Love。  あの日終わったはずの恋に、嵐が吹き荒れるなんて想像もしていなかった。 「だーかーらー」  出窓(でまど)の部分に腰かけ、浜辺を見下ろす優人。隣では元恋人の結愛が説明をしている。  もし半年後に彼氏がいなくて、自分と付き合いたいと思うのであれば、会ってあげると優人が言ったらしい。 ──俺はそんなことを言ったのか?  本当に?  あの時は、泣きじゃくる結愛を(なだ)めすかすのに必死だった。  けれども、このままでは良くないと思ったのだ。  恋人が出来ても、優人と比べる。  その事が原因で上手くいかなくなり、優人に泣きつく。 『なら、より戻す?』 と聞いても彼女はうんとは言わない。  こんなことを続けていても、結愛は幸せにはならない。  だったらいっそ、二度と会わない。  自分のことは忘れろと言ったはずなのに。   ──俺だって忘れる努力はしたはずだ。  やっと前に進めると思ったのに、これは一体? 「結愛、いっぱい考えたの」  その足りない頭でか? 「優人が()いの」 「俺は嫌。お前、束縛激しいし」  自分の膝の上に肩ひじをつき、頬杖をついていた優人は、突然抱き着かれてバランスを崩す。 「なんだよ、危ないだろ?」 「お膝抱っこ」  胸が頬に当たり、色気で何とかしようとしているのか? と思いながらも、 「あー、はいはい」 といって要望を叶えてやる。 「で?」  正直、以前のように振り回されるのはごめんだ。 「優人は彼女いるの?」  もじもじしながら聞く彼女に、恋人がいてこんなことしてたら殴られるぞ?   と思いつつ、 「今はいない」 と答える。 「ならいいでしょ?」 「何がだ」 「相変わらず、仲がよろしいことで」 とキッチンにいた平田がリビングのテーブルの上に、飲み物とお菓子を置いていく。 「どこがだよ」 と優人が嫌そうに言うと、 「もう、つきあっちゃえばいいのに」 と爆弾を投下する。 「助けるという選択肢はないのか?」 「俺が元カノちゃんとつきあっても良いけど、優人キレるでしょ」  そう言われてしまうと、返す言葉もない。 ──ん?  付き合う?  平田の言葉を反芻し、結愛が何と言っていたのか思い出す。 ”『もし半年後に彼氏がいなくて、自分と付き合いたいと思うのであれば、会ってあげる』と優人が言ったから来たの” 「はあ?!」  現状をやっと把握し、素っ頓狂な声をあげる優人。 「どうしたの? 急に大きな声出して」 と結愛。 「な、なに。お前、俺と付き合いたいの?」  あまりに動揺し、上手く言葉が発せなかった優人に対し、 「だから、初めからそう言っている」 と結愛。 「ちょ……ちょっと待て」  意外な展開に思考が追い付かない優人であった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加