社会人1年目 side 創

2/2
前へ
/248ページ
次へ
 家に到着。 慣れない運転は、やはり、緊張した。 「ただいまー。」 「お帰り。どうだった?仕事先?」 と、母さんが聞いてきた。 「何か、良く分からなかった……。次に行く時までに、書き終わらないといけない書類は、もらってきたかな。」 「そう……。」 とだけ答えて、母は、食事の準備を続けた。  俺は、部屋へ入り、渡された封筒から、書類の束を確認し、記入できるものから、書き始めた。  そして、今日、出会った人たちのことを思い出す。  最後に会った中村先生って、いくつくらいかな……。  生徒2人が、両側に並んでいる姿を思い描く。 『肩から20センチ位のロングヘアーをシュシュで一本に束ねていたっけ。クセのないストレートだったよな。ネイビーのシュシュ、髪の色と合っていたなぁ。』 と知らず知らずのうちに思い返していた。  次の日は、通勤時間と同じ時間に、通勤経路を運転した。そして、自宅からの距離を計測。書類に記入するためだった。  学校に着くと、ジャージ着用のメガネをかけた若い男性の先生が、生徒と一緒にランニングをしていた。この時期で、しっかり日焼けしている。部活焼けなのだろうか……。 走りさりながら、挨拶された。 その後、生徒たちからも。 また、軽く会釈をして、車に戻る。 ランニング軍団が、一旦休憩にはいったらしい。車の中まで声が聴こえてくる。 「あれ、新しい先生かな?」 「そうじゃない?」 「どこの学年かな?」 「若い先生だね。うちの学年に。来ればいいのに……。」 『……。』 なんとなく、都合が悪くて、その場から離れた。 つい数日前まで、ただの大学生だった俺。 新任式が終われば「先生」と呼ばれることに、違和感を感じずには、いられない。 しかし、そんな仕事を選んだのは、自分自身。『仕方ないよな。』と自分に言い聞かせる。  早く「先生」と呼ばれることに慣れないと……。  数日がすぎ、初出勤日。 新任職員は、新任式のなかで、一人ひとり挨拶。  俺は、演台の前にたち、大きく深呼吸。 そして、 「おはようございます!」と挨拶して簡単な自己紹介をした。 午後からは、所属学年の2年生の生徒ととも、入学式の準備をし、2、3年生は、礼法と合唱練習。 先生方は、素早く要項を確認すると、生徒たちに的確な指示を出していく。   唖然とした。 『先生』って、仕事は、こんなこともするのか……。 『仕方ない……。分からないことは、生徒と一緒に覚えるしかない。』 と心の中で呟き、活動に入る。  数人の係生徒とともに、横看板の模造紙をはり、掲示の調整をする。  その後、パイプ椅子、長テーブルの準備と消毒……。 何とか、時間内に活動を終わらせることができ、ホッとする。 『終わった……。』  この日の最後は、職員集会…。 それぞれの担当者から、入学式準備の進捗情報を確認して、退勤らしい。  1学年の職員はこれから、クラス分け名簿を玄関に貼って業務終了。 長い1日が、終わった。明日は、入学式……、か。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加