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レモンの香り side 志緒
「お姉ちゃん、これっ、食べてみようよ!」
「……。うん。」
「航もお腹が空いたかな?お姉ちゃん、ちょっと、飲ませてくるね?」
暫く1人になった……。
何となく包みを見る。
焼き菓子の甘い出来たての香り……。
ベットから、包みをおいてあるテーブルに向かった……。
袋を開けると……。
爽やかなレモンの香り……。
病室に、澪緒が戻ってきた。
「あっ、お姉ちゃん?」
「……。」
「お姉ちゃんの好きだった、マルコポーロ入れて、頂いたお菓子を食べようね?」
澪緒が紅茶の準備を始める。私に航くんを任せた。航くんは、しっかり寝息をたてて眠っている。
紅茶の準備ができ、お皿にパウンドケーキが置かれた。
「はいっ!」
「ありがとう、澪緒……。」
フォークで一切れ口に運ぶ。
フワッとレモンとバターの香りが口の中に広がった……。
訳もなく涙が滲む。
「お姉ちゃん?」
心配そうに私を見る澪緒……。
もう一口食べる。
また、涙が滲んだ。
フォークを置いても、涙が止まらない……。
「お姉ちゃんっ?大丈夫?」
「大…丈夫……だよ?涙は、出るんだけど……、全然、怖くない…から。」
「そう……。」
澪緒は、納得したように頷いていた。
もう一口食べ、目を閉じた。
すると、ボンヤリ、シルエットが見えた。
“男の人?”
その瞬間、シルエットは、消えてしまった……。
「お姉ちゃん、担当の先生を呼ぼうかね?」
「あっ、呼ばなくても…。いいから…。」
「でも…。」
私は、澪緒の問いかけに曖昧に答えた。
きっと、過去の記憶の欠片…。
“無理に思い出す必要もない…。”と思った。
2日前に、やっと、新しく“自分”を生きると決めたのだ……。
まだ、混乱する時もあるけれど…。
良く見ると、ペーパーバックの中に、ト音記号と音符がデザインされたカードが入っていた。
🎼
志緒さん、食べて、元気になってください。ずっと、覚えています。
大高 創 ♪♪♪
手書きの文字を読むと、何となく微笑んでいた。
「お姉ちゃん、美味しかったんだね?良かった……。」
そして……。
病室の窓から、景色を眺めながら、手作りのスイーツと入れたての紅茶を楽しんだ。
これからの自分を思い浮かべながら……。
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