入学式では side 創

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入学式では side 創

 次の日は、快晴。 保護者と一緒に、生徒玄関に新入生が次々にやって来る。 俺は出迎えと教室案内の生徒たちと、新入生に声をかけ、検温と健康観察の用紙を回収。 「大高先生のおかげて、用紙回収がスムーズで助かったわ。」 受付で、養護教諭の高橋先生から声をかけられた。 「お役に、立てましたか?それなら、良かったです。」 と、にこやかに見えるように、意識して受け答えをする。 『まだまだ、素を見せては行けないよな。』と心の中で呟く。 「後、五分したら、大高先生は、会場へ入ってね。」と高橋先生が言った。 「はい。」と答えた。 今日は、職員は、礼服着用。 俺は、昨日、慌てて、ネクタイを買いに走った。 2年前に、親戚の法事があったので、礼服はもっていた。会場に移動するまえにスニーカーから、革靴に履き替え、体育館へ向かった。 入学式前の漂う空気。 2、3年生の緊張感が伝わってきた。 そして、ヴィヴァルディの春に合わせて、新入生入場。  昨日の新任式で、ピアノを担当していた中村先生が、今日は、3学年職員席に座っていた。 音楽の担当は、二人らしい。 中村先生は、姿勢良くパイプ椅子に座っている。 新入生代表の挨拶。 在校生の歓迎の言葉。 そして、校歌。 職員、在校生は、マスクをしたまま、歌唱することに。 俺は入学式のしおりに書いてある、歌詞をみていた。 昨日、聞いただけだから、全然分からないが、口パクだけでも、と思っていた。 すると……。 会場に響き渡る澄んだソプラノの歌声。 教会で聴いているような(行ったことはないが)雰囲気だ。声が天井から降ってくるような響きに、俺は、つい聞き惚れてしまった。 おかげで、式の終わりの修礼の反応が一呼吸遅れてしまう。 「新入生退場。」 進行の言葉で、新入生が移動。 職員室へ戻り、帰り支度をしている中村先生がいた。 「お先に失礼します。」 そう言って、職員室から出る中村先生を無意識に追いかけていた。 「中村先生、校歌すごかったです。体育館中に、響いていましたよっ!!」 興奮気味に伝えると、 「大高先生、専門だから、普通……です。」 少し、表情が曇り、あっさりした、返事が。 「えっ?」 「それでは、失礼します。」 と言って、足早に帰ってしまった。 『俺、なんか変なこと、言ったか??まあ、でも、気にしてもしかたないか…。俺も、帰ろう。』 職員室へ戻ると、佐々木先生が、明日の準備していた。明日からは、授業も入る。 佐々木先生は、一つ年上で、昨年からここで勤務している英語教師。今年、初めて、学級担任をすることに。 「はぁ。」と椅子に座ったとたん、ため息が出た俺に、 「疲れた?」と聞いてきた。 「いえ、さっき、中村先生に帰りの挨拶と歌声に感動したことを伝えたんですが…、なんか反応が薄くて……。話しかけないほうが良かったのかな?と。」 すると、 「あー。うん。なるほどね。」 「なんか、あるんですか?」 「去年、いじめられたの。もうひとりの音楽担当に。」 「えっ?」  佐々木先生が、ざっくり経緯を教えてくれた。 去年、授業で、歌唱指導をしていると、秋田先生に、生徒に比較されて授業がやりにくい、と攻撃されたそうだ。  しかし、彼女の歌声を楽しみにしている保護者や生徒が多いため、今回のような時は、役割分担的に、歌唱させているらしいと、教えてくれた。 「理不尽だよな。」と佐々木先生。秋田先生は、30代。中堅の先生で気性が激しいらしい。 その時、中村先生は、 「私の専門は、声楽なので、」と話し、彼女の言い分を聞くだけ聞いて、乗り切ったらしい。 ある意味、パワハラともとれる内容だったため、管理職も確認に動いたそうだ。 中村先生は、講師という立場。辞めると言っていたようだが、その時、生徒達が、辞めさせないでと騒いだらしい。それが、今の3年生。 『生徒に、人気があるんだな。』 佐々木先生も辞めなくて、良かったと話す。 「中村先生って、生徒の掌握がものすごくうまいんだよ。同い年とは、思えなくて、俺も少し、ジェラシー。」と とぼけた感じで、教えてくれた。 その話を聞いて、ますます、中村志緒という人に、興味が湧いてきた。
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