社会人1年目 side 創

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社会人1年目 side 創

 大学4年の3月末、バタバタと引っ越しを終えて地元に戻ってきた。  ずっと、公共交通機関での移動だった4年間。    今日は、ほとんど、ペーパードライバーだった4年間から一転、ハンドルを握り、4月からの仕事先へ向かっている。    車から降りるとグランドから、元気な挨拶が、聞こえてきた。挨拶をしてくれた生徒へ軽く会釈をし、建物の玄関を目指した。  校舎へ入り、校長室へ通される。 すでに、ベテランの先生方が座っている。 「こちらに、どうぞ。」 と、声をかけられた。 声の方を見ると、年配の女性。 名札には、教頭、『織笠』と書いてあった。 「ありがとうございます。失礼致します!」 お辞儀をして席に着いた。 「後、ひとり、来たら始めましょうか。」 落ち着いた声色で、校長先生が言う。  この後すぐに、社会人として、仕事の打ち合わせが始まった。  俺、大高創(おおたか はじめ)は、今年3月に大学を卒業。運良く教員採用試験に合格。4月から公立中学の教師に採用された。  家庭教師のバイトは、数回したことがあったが、正直、不安大。 『ホントに、大丈夫か?俺?』 と、自問自答しながら、この日、打ち合わせにやってきたのだった。  一通り、顔合わせが済むと、校内を案内してくれるらしい。    織笠教頭の後ろに並び、ぞろぞろと校長室を後にした。 「ここが、第一体育館。入学式の準備で、紅白幕がそのままにしてあるの。」 「階段を降りると、第二体育館と隣合わせで、柔剣道場がありますよ。」 案内にしたがい、移動した。  第一体育館のドア前に立つと、ピアノの音が聴こえてきた。 「あら?中村先生、練習中だった?」 「いえ、そろそろ終わりです。今日はこの辺で。また、入学式前に、練習しましょう。」 「はいっ。中村先生、ありがとうございました。」 とお辞儀をする女子生徒。 「また、お願いします!」 と元気に挨拶をした男子生徒。 「じゃあ、2人とも帰りましょうか…。」 そう言うと、生徒と一緒に歩き出す先生。 すれ違い様に、 「お疲れ様です。」 と落ち着いたトーンの声色がした。その先生は、生徒と共に 、その場を離れて行った。  織笠教頭が、 「今のは、音楽担当の中村先生。入学式で、2、3年生が歌う新入生への歓迎の合唱の指揮者と伴奏者の練習を見ていたみたいね。」 と説明してくれた。 それから、教室棟、特別教室棟を案内され、職員室に戻ると、提出書類書きに追われ、この日は解放された。  次に来るのは、新任式。4月に入ってからだ。 『それまでに、運転に慣れないとな。』と呟き、車のエンジンをかけた。
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