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ミチルは死を直感した。
目の前の全身青色の人物が、こう告げたからだった。
「――そういうコトです」
ミチルは戦慄き、みっともなく叫び散らした。終いには本能だけが命乞いをしているみたいに自制のない挙動と息だけの発声を繰り返した。
全身青色の人物が、得意そうに軽く手を動かした瞬間――
そこで、ミチルの意識は完全に落ちた。
正義の味方マン之介@Hk3n4bn
♯全身青色マン ♯渋谷 ♯やばい事件
この前、渋谷の路地裏で全身青色の人間を見て驚愕したんだけど、そいつが俺氏の目の前で人をサツったんがもっと驚愕www
(23:12・20○○年○月○日・Twitter for ---)
L 炸裂!青いロマンが満ちるんです♪@sji39jw9ajaj・1分
ⅼ マジっすか!?だとしたらマジにイカした姿ですやん!全身青て!
L こおろぎロギ丸@aiw8h9nai・5時間
ⅼ 錯乱ですか??w そんな現実は小説よりも空なりΩ\ζ°)チーン
L なめこ汁すするっす@m2fai4wia・5時間
ⅼ あー分かります分かります そういう夢たまに見ちゃいますよね??
ⅼ
「あいあい!分かりやっしたぁ!」
得意げなガキのように返事をしたのは、佐々木部巡査であった。
その返事の仕方が命じた飯野盛警部の癇に障り、彼を眼光鋭く睨みつけた。
だが無頓着なのか、単に気づかなかったのか。佐々木部巡査はお気に入りの真っ青なトレンチコートを翻し、鼻歌交じりのスキップで去って行った。
飯野盛警部がその後ろ姿を睨みつけながら「こんのチンカス野郎がいつか殺したろかぁ?」と調子づいてる部下への殺意を吐き捨てると、持っていたスマホを開いた。
正義の味方マン之介@Hk3n4bn
♯全身青色マン ♯渋谷 ♯やばい事件
はいはい注目~!イキってる人間マジなんなん?俺をなめる奴マジなんなん?そんな野郎は――全身青色マンが成敗ッッッッ!!!
(23:36・20○○年○月○日・Twitter for ---)
L 自白白屋@gt4e89g0・15秒
ⅼ こいつはただの目立ちたがりで草
L 炸裂!青いロマンが満ちるんです♪@sji39jw9ajaj・38秒
ⅼ 巷を騒がす全身青色マンさんがまさかこんなところに!?
L なめこ汁すするっす@m2fai4wia・47秒
ⅼ やっぱこいつが最近話題の全身青色マン?犯人キタコレ?
ⅼ
その瞬間、彼は傍に寝転がる同僚とのやり取りを思い出していた。
「――さんって、なんで青で統一してるんですか?靴も、靴下も、そのコートもそうですよね?」
彼は得意げに鼻を鳴らす。
「日本の警察の制服ってさ、基本青じゃん?だから俺、警察になったんだよねぇ。だって青色ってロマンじゃね?青いロマン!ま、そういうコトです!」
少々噛み合わない会話に、質問した同僚は愛想笑いで話を打ち切った。
「ちょ、なんで行っちまうんだよぉ?もっと聞いてくれよぉ」
彼は去って行く同僚の背中にじゃれつくようにタックルした。
場所がいい。上司の命令で一緒に捜査していた場所は、人気のない路地裏だった。
同僚が衝撃に視線を下げる。胸のあたりから滴る血に、驚愕の面持ちで振り返った。
そこには、全身青色の人間が血塗れのナイフを持ってほくそ笑んでいた。
「だーかーらぁ、そういうコトです、って言ってんじゃん?」
彼は痛みにもがく同僚の死を楽し気に見届けると、制服の胸ポケットからスマホを取り出した。
画面に雨粒が跳ね始めた。
正義の味方マン之介@Hk3n4bn
♯全身青色マン ♯渋谷 ♯やばい事件
続報:また全身青色マンがサツった!しかも今度はポリスメン一丁!やばいやばいやばい!渋谷やばすぎwww
(4:14・20○○年○月○日・Twitter for ---)
L 出汁は昆布派!@yr56edtdw4m・27秒
ⅼ はいはいまじかよー すごいねうんうん!(ネットの噂信じてて草)
L パス&パス@uyu8cjf3v・36秒
ⅼ てかそれソースどこ?まだニュースになってないけど
L 粒餡よりこし餡よりマーマレード@op5d698i・49秒
ⅼ ニュースにもなってる連続殺人犯さんです??おまわりさーん!!
L 炸裂!青いロマンが満ちるんです♪@sji39jw9ajaj・54秒
……あー、そういうコトですか
――渋谷の繁華街から少し外れた、驟雨に隠れた路地裏。
佐々木部巡査が恐怖に顔を引き攣らせ、尻もちをつき、お気に入りの真っ青なトレンチコートをぐちゃぐちゃに汚しながらじりじりと後退する。
今まさに目の前の全身青色の人物が自分を殺そうと迫ってくるからだ。
「た、助け――、お、俺が何したってんだよ!?な、なぁ!?」
必死の命乞いに、全身青色の人物が不愉快そうに舌打ちした。近くに転がる他の警察官の死体を苛立たし気に蹴飛ばす。
「SNSで俺の名を語って好き勝手にインフルエンサー気取ってんの、お前だろ?」
「――ふぇ?え、ええっ!?マジそ、そんなことで、っすか!?」
「あー、後、お前のその態度ね。この前も得意げになってさー。俺もなんであんなことで、って今考えれば結構ばかばかしいけどね。ハハッ。ま、とにかく――」
全身青色の人物が手の中のスタンガンを一度鳴らして遊ばせてみせた。
それに死の危険を感じ取った佐々木部巡査が「ひっ!?」と一段身を竦めた瞬間、全身青色の人物が熟れた手付きで佐々木部巡査の首にそれを軽く押し当てた。
「――そういうコトです」
驟雨は止んでいた。暗く湿った路地裏に放電光が瞬き、煙も残さず消え去った。
炸裂!青いロマンが満ちるんです♪@sji39jw9ajaj・42分
♯全身青色マン ♯渋谷 ♯やばい事件
安易な模倣は、ダメ、ぜったい!www
(午前4:59・20○○年○月○日・Twitter for ---)
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