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鳴り響くサイレン。静かな郊外の住宅地は騒然となり、黒黒とした煙が上空へと立ち上っていく。
見通しのよい場所で社用車を降りた三条は、茫然とその光景を見ているしかなかった。
出動してきた消防車が放水を開始しているのは根賀邸である。火の勢いはすさまじく、全焼は免れないだろうと思えた。
火災の熱が、百メートル以上離れた三条のところにまで伝わってくる。夏の暑さもあって、不安そうに遠くから取り巻く付近の住民たちといっしょに汗を垂らしながらも見守っていた。
(根賀さんは無事なのだろうか……?)
依頼者の身を心配した。案件の核心に迫れると思ったのだが、これでは話を聞くどころではない。どこかに避難していて、あとで事務所に連絡なりあればいいのが……。
が、その日の午後、依頼者らしき人の焼死体が発見された、というネットニュースの速報で、その願いがかなわなかったのを知った。
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