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ギンジのその言葉に、トメキチはほっと息を吐く。戦う気力が失われてしまったようにも思えていたからだった。しかし、ギンジの胸の裡には落胆よりも萌子を救えなかった後悔と自身への憤り、それと『上位管理者』への憎悪でいっぱいだった。
「確かにあのフォースフィールドは、遠距離攻撃の防御に特化しています。どうにか近づけるように道を作るので、剣持くんは接近を試みてください。ですが、危険だと判断したらすぐに後退をお願いいたします」
麗子が『上位管理者』の注意を自分へ向けるために果敢に光束や爆撃などで連続攻撃をしかけるが、それらはことごとくフォースフィールドによって阻まれている。それでも諦めずに攻撃を加え続け、報いとばかりに『上位管理者』が撃ち返す光球や光波を避けていた。
「ありがとう、明石さん。泣くのはあとだ。僕は絶対にアイツを許さない」
そういうとギンジは自身へ速度強化を施し、左右のサイドステップを織り交ぜて『上位管理者』へと接近して行った。
「剣持くん、焦りは禁物です。怒りは正常な判断力を失わせてしまいます!」
「これが憤らずにいられるか! 目の前で、弓削さんは消えてしまったんだ! 僕が、僕さえしくじらなければ、彼女は……弓削さんが消えることはなかった!」
「チッ、ありゃ完全に頭に来ちまってるな……」
駆けて行くギンジの背を追い、トメキチも走り出す。
一足飛びで間を詰めたギンジはその勢いのまま『真空斬』を浴びせ、続け様に『横閃斬』で斬りつけた。不可視だった『上位管理者』のフォースフィールドに白いヒビのような亀裂が小さく伝う。これを好機と見て、その場に留まってギンジは次々と『剣技』を繰り出す。ゆらめき立つ『功力』の青白い光が『上位管理者』を一方的に攻め立てているように見えた。
「やりますね。ですが少々調子に乗り過ぎです」
『上位管理者』が掌底のように右手のひらを突き出す。そこから白い波動が放射状に放たれた。その威力は一トンを超える質量のギンジをいとも簡単に吹き飛ばす。
十メートルほど床をごろごろと転げ回り、ギンジはようやく動きを止めたが、刀は手から遠く離れ『上位管理者』の足元に落ちていた。
「くそっ、もう少しだったのに……!」
悪態を吐き、倒れたギンジは身体を起こそうとするが、物理ダメージだけでなく、一時的に動けなくなるスタン状態に陥っていた。さらに白い波動には稲妻状の白い光束と同様に物理防御力を貫通し、属性耐性をも無視する効果があった。
ギンジの倒れている床が白く光り始める。
「ヤベェぞギンジッ!」
「くっ……ここまでか……」
ギンジの下の床が抜ける。トメキチはダッシュで近づき、手を伸ばして落ちかけていたギンジの左手をつかんだ。ギンジの質量に引っ張られたが、なんとか耐えて穴の側でしゃがみ込む。
顔を上げたギンジの表情は、思ったほど怒りにまみれておらず、むしろ穏やかさに満ちていた。トメキチの背筋に冷たい予感が走る。
「トメキチ、動いていないと君が狙われる。その手を離してくれ……」
「ンなこと、できるワケねェだろがッ!」
麗子と小梅が陽動のため『上位管理者』への攻撃を行っているものの、やはり遠距離攻撃ではフォースフィールドの硬い防御に阻まれ、効果は薄いままだった。
ギンジは震える右手でなんとか腰の脇差を抜くと、自身の左手首へ刃を押し当てる。
「バカやろうッ! お前、なにすんだ! ギンジッ?」
「前にもいっただろ。僕は君を踏み台にしてまで生き永らえたくはない……ってね。トメキチ、あとのことはよろしく頼んだよ。必ず、世界を救ってくれ……」
鈍い切断音と共に鮮血が舞った。トメキチは急に負荷がなくなったせいで後ろへ尻もちをつくように倒れる。ギンジの身体は勢いよく落下して行き、白い虚空へと姿を消した。
トメキチの握りしめていたギンジの左手が、細かな白い光となって散って行く。
「バカやろうッ! なんでこんな……バカやろう……」
トメキチは消え行く光に続ける言葉をなくして、ただその場で項垂れた。
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