儂の話を!

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儂の話を!

アレは儂が丁度伍十の時かと思う! 儂は良い和紙木が有ると聞いてなぁ〜! 横浜港(ヨコハマミナト)に行ったんじゃよぉ〜。 儂は二泊の積りで江戸から横浜港迄行ったのはそんな理由だぇ。 品川宿を歩いて居る頃には丁度雲行きも怪しくなってよぉ〜、儂は川崎宿までなんとか持てばっと速歩きをしていたんじゃ! 六郷土手で雲も我慢が出来ずに雨が振り出しだぇ! 川は見るゝうちに増水してよぉ〜・・渡し船さえ止まりおった。 それに陽も影って来たんだぇ! こんな川沿いで野宿なんぞは危ねぇと儂は近くに宿と・・向かったんけんどぉ〜よぉ〜。 この大雨に付けて六郷土手には旅籠が()んめぇんだ〜六郷土手沿いには百姓家しか()ぇわさぁ。 その百姓家とても、もう軒下迄・・人ゝでぇ・・こりゃ野宿と変わらねぇかったぇ! 儂は川沿いを歩いて小さな祠を見つけたんじゃ! ちょうど人がぁ〜一人か二人が入れるくらいの祠じゃった。 外で雨に濡れて寝るよりはマシとなぁ〜儂は思ったんじゃ。 儂は今夜の宿をこの祠と決めたんじゃ。 雨に濡れ寒さと疲れが出たと思うぞぇ! 鬱ら鬱らとしていた時じゃった! 儂に話し掛ける奴が横に座っておってなぁ〜。 これが不思議なんじゃけどぉ〜なんも怖いことは無かったんじゃ。 怖いどころか・・なんと言うかぁ・・? まぁ・・横に座った奴には恐ろしさを感じてないんじゃ〜! 其奴が独り言のように語りだしたんじゃ。 「お前さまはに逢いたかった・・お前さまが俺の話しを聴くんだぇ!」 「ホウぉ〜儂に逢いたいとぉ〜・・それはそれは変わった御人だぇ!」 声からして女子(オナゴ)だと思ったんじゃ。 その得体の知れぬ物が話し出した・・! 儂かて寒さと眠さとでぇ鬱ら鬱らと聴いておった。 どうも女衒に売られて犯され散々な目に遭ったとぉ〜言う話しじゃ! それで女衒の隙を見てこの丹波川(タマカワ)に飛び散ったらしいんじゃ! 其奴が鬱ら鬱らの儂に言った。 「・・この朽ち果てて残骨の俺を観て・・世俗に・・女衒に・・俺のことを眼に物見せてほしい・・一生後悔するくらいにぃ!」 儂は・・最後にこの得体の知れない物を見た! そして儂は考えた。 この話しを儂は老いさぼれて朽ちた女郎にした訳じゃ! (アダ)にされると遺憾からのぉ〜! 6bd361d1-c3ae-42b8-80e4-5acd076056bc 『宿場女郎』の図・・骨と皮だけになりながらも客を招く朽ち果てた宿場女郎。 最後の浮世絵師「月岡芳年」より! ー了ー
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