イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて一回だけヤッてしまったら大変なことになってしまった話

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 熱くて、熱くて、灼けてしまいそう。  視線が熱いなんて、そんなの例え話でしかないと思っていた。  でも事実、首筋に、背筋に、腰に、注がれる視線の熱でどうにかされてしまいそうだった。  体中を撫でたり、舐めたり、噛んだりされたような気になってしまうほどの、視線。  視線の先には背を向けているはずなのに、嫌というほど感じる熱。  ホワイトボードに走らせるペンが震えてしまいそうになるのをぐっと堪えていたときだった。 「黒川……お前めっちゃ成海のこと見てるけど、まだ何か意見あんの?」  サッカー部のミーティング中に部内で書記を務める成海が、レギュラー陣の意見をまとめながらホワイトボードに次の試合のフォーメーションを書き込んでいると、部長である北川が成海に視線を注ぐ黒川に声を掛けた。  一年生で唯一のレギュラー、それもチームのエースストライカーをこなす黒川は、部長に名指しで話し掛けられたにも拘らず、嫣然と微笑んだ。  まだ一年のくせに、持て余したように長い手足。ゆったりと脚を組んでいる様は、整った甘いマスクと相俟ってとても高校一年生とは思えない貫禄だ。 「フォーメーションは皆で決めたとおりで異存ないですよ」  甘い低音で言いながら、黒川の視線は言葉を向けた北川でなく、成海に注がれている。  皆の前で振り返って、正面からあの視線を受け止めたら、顔が真っ赤になってしまうのがわかるから、成海はとても振り返ることが出来なくてホワイトボードに向き合ったままであった。 「そんなに見たら、成海に穴が開いちまうだろーが」  北川が苦笑いしながら言う。 「そんな見てました? すいません、無意識でした」  無意識なんかじゃないくせに。  しれっとそう言った男に成海は溜息を吐きたくなるのをぐっと堪えた。 「んじゃ、他に意見あるやついる? いなきゃ今日はこれで終わりな。明日の朝練でこのフォーメーション試すから遅刻厳禁。以上」  北川がそう言ってミーティングは終了した。 *****  ホワイトボードの内容をパソコンに纏めて監督にメールをするまでが書記である成海の仕事だった。  成海がホワイトボードの内容を纏め終わったときには既に部室の中は閑散としていた。 「ホワイトボード、もう消して大丈夫ですか?」  絶妙なタイミングで、腹の奥底に響くような甘い低音で話し掛けられ、成海の背中はびくりと波立った。 「……あぁ。消して大丈夫。ありがと」  動揺したと2つも下の後輩に気付かれるのも癪なので、努めて何でもないような声を出した。  黒川がホワイトボードを消している間に、監督に送るメールの文面を読み返してから送信ボタンを押す。  無事に送信できたのを確認してから、電源を落とすと、ふと、影が落ちた。 「成海さん、終わりました?」  ホワイトボードを綺麗にした黒川が成海の目の前に屈んだからだ。  近い距離からその真っ直ぐな視線を受けて、成海は顔も上げられないまま頷いた。  まだ一年のくせにやたらと大人っぽいこの男は自分の香りというものをもう既に身に纏っている。  練習後、彼の汗に混じったその香りは、先日頭がおかしくなるほど嗅がされた香りと同じで  頬どころか、耳の縁まで赤くなってるのがわかってるのがわかる。  あの目を今受け止めて平静でいられらる自信がなくて、年上としての矜持なんかに拘っていられず成海は逃げるように瞳を伏せたままだ。 「成海さんの部屋まで送って行ってもいいですか?」  サッカー部の寮は同じ棟にあるが、ご丁寧にも毎日毎日黒川は成海の部屋まで送ってくる。 「……断ったって送るじゃん」 「成海さん、断らないでしょ」  ふふ、と黒川が笑う声はとろりと甘い。 「……っお前がしつこいから……っ」 「うん。俺がしつこいから、結局断り切れなくて送らせてくれる。成海さん、ホント優しいよね。でも押し切られちゃうのは俺だけにしてね」 そう言って、睫毛にかかる成海の少し長い前髪を黒川の指がそっと除けた。 「で、お前らやっぱり付き合ってんの?」  もう誰も部室には残っていないと思っていたのに、背後から声が掛かって、成海は椅子から飛び上がる勢いで驚いた。比喩ではなく、実際に飛び上がっていたかもしれない。 「は? え? 北川まだいたの?!」 「あー……鍵……成海に渡して帰ろっかなーと思ったんだけど、お前らイチャイチャしてるから、声掛けるタイミング逃した。で、付き合ってんの?」  重ねて北川から尋ねられて、成海はひどく混乱した。 「つ……付き合ってる、なんてどういうこと? やっぱりって、そういう噂とかあるの? それとも黒川、北川に何か言ったの?!」  成海の珍しく険のある声に、北川はそれと見えずたじろいだ。  成海が黒川を勢いよく振り返ると、黒川は反抗する意思はないと言うように軽くハンズアップしていた。 「俺、誰にも何も言ってないですよ。成海さん好きなこと隠そうとする気もないですけど」 「ばっばかっ……お前何言って……北川もっ変なこと言わないでっ俺ら付き合ってないからっ」  叫ぶように言って、恥ずかしさのあまり成海は部室を飛び出した。 「やべ。怒らせちまったかな」  いつも穏やかな成海が声を荒らげて出て行ったドアを見ながら北川が宣った。 「わざとでしょ。北川さん。ホント、余計なこと言われると困るんですけど」 「お前そんなに困ってそうに見えねぇけどな」  黒川の顔を見て北川は肩をすくめて言う。 「困ってますよ。折角いい感じだったのに」  整った顔を態とらしく困ったように顰めて見せるその仕草は、とても年下とは思えず北川は溜息を吐いて、黒川に部室の鍵を放り投げた。 「お前が鍵締めておけよ。あとあんまいじめんなよ。あいつは慣れてねぇから」  なんだかんだで成海に甘い北川は、牽制するように黒川を見た。  
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