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部室の隣にある用具室のドアを開けると、真っ暗な室内に佇む細身の影を見付けて黒川は頬を緩めた。
細いシルエットは体力がない証拠だと成海は嘆くが、黒川はそのラインをとても好ましく思っていた。
スポーツ特待の多いサッカー部の中で、珍しく一般入試で入学し、しかも唯一特進科に在席する成海。
一見すると、全国大会にも出るような厳しいサッカー部の中で、線が細く、如何にも神経質そうな成海の存在は異端とも言えた。
実際黒川も入部した当時は、サッカーに命を掛けてると言ってもいい男達の中で、勉強に対しても熱心であった成海は部活の中で浮いた存在であるように見えていた。
だが、スポーツ特待で入った者達に必死で付いていきながら勉強も頑張る彼を、なんだかんだでサッカー部の面々は認めて大事にしているようだった。
加えて成績は学年一位を取るほど頭も良いので、試験前ともなると、勉強が不得手なスポーツ特待の部員達に勉強を教えてくれる。
不定方程式を黒川に丁寧に教えてくれた成海の指先の美しさと優しい声。そしてフィールドで駆け回る靭やかな脚に、黒川はバカみたいに見惚れた。
「成海さん」
黒川が声をかけると、目に見えて肩を震わせた成海。
「……ごめん……北川も冗談で言ったのに、俺がつい過剰に反応しちゃったから、変な感じになっちゃったね。明日北川には俺から謝っとく」
黒川がパチリと電気を点けると、入り口に背を向けて俯く成海の後ろ姿。
精一杯先輩らしく振る舞おうとする背中を抱きしめると、怯えた猫のように成海は震えた。
一八五センチの長身で、まず高校生相手では当たり負けすることのない黒川の腕の中に成海はすっぽり収まってしまう。
「恥ずかしくて怒っちゃう成海さん、可愛かったです」
「……ちょ……っ黒川っ……」
「俺がこんなに好きなのに、何がまだ不安なの」
耳殻にぴたりと唇を付けて黒川が声を流すと、腕の中の体はびくりと跳ねた。
「は……離して……っ」
腕の中で成海が抗ってもぞもぞ動く。
「嫌です。逃げたいなら自力で頑張って下さい」
「ひっ……ずるい……っ」
耳のふちに黒川が舌を這わすと、成海の声が上擦った。
「ずるくないです。一回だけ抱かせて終わりにしようとした成海さんの方がずるい」
「あ……っ」
耳のふちを辿っていた舌を、ぬるりと耳の中に挿入する。
「ねぇ。成海さん。さっきミーティング中に俺に見られて、なにかんがえたの?」
ゆっくりと溶かすような愛撫の中で質問されると、本心を隠すことができないのか、成海の体は強張った。
ミーティング中。沢山の人の中。
ホワイトボードに向かう成海の後ろ姿を眺めていると、あの細い腰を掴んで存分に揺すってしまったことを思い出して、黒川は彼の体を舐めるように見つめた。
ホワイトボードに向かってペンを滑らす彼の筆跡はいつもどおり美しかったけど、黒川の視線を受けて耳のふちが赤く染まってしまった。
それが物慣れない彼らしくて、さらに情欲の籠もった視線で体をなぞるように黒川は見つめたのだ。
「俺に奥までぐちゃぐちゃに掻き回されたこと、思い出した?」
まるであの日の情事を思い出させるように背後から成海の下腹を大きなてのひらで撫で回した。
「んっ……っ」
「一回すれば、俺が好奇心満たされて成海さんに飽きるって? そんな訳ないでしょ」
「ひ……っぁ」
そう言って黒川は成海の下腹を押すようにしてねっとりと撫でた。
「俺、成海さんのココまで入っちゃったんですよ……」
トン、と臍の辺りを黒川の長い指が突いた。
「ぁ……っ」
思わず小さく成海は喘いだ。
覚えてる? 清楚なあなたがあんなになっちゃったんだもんね。忘れられるわけ、ないか。
「真面目な成海さんがあんな顔するとは思わなかったな……成海さんの中、キツくて、熱くて、でも柔らかくてぬるぬるしてて……」
「あ……ん……っ」
練習用のユニフォームの上から臍の穴をまるであの日、脚の間の秘穴を弄ったときみたく、くりくりといたずらすると、無防備な可愛い声が上がった。抑える方法さえも、知らない無垢な彼。
「感じまくってる可愛い顔と声、いっぱい俺なんかに見せちゃって、アタマいいのに馬鹿だね。成海さん。俺がもっともっと成海さんにハマっちゃう危険は考えなかったの?」
「も、やめろって……っ」
下腹をいやらしく撫で回す黒川の手首を、ぎゅっと掴んで成海は黒川を振り返った。
「やっと、こっち向いた……成海さん……っ」
「……んんっ……」
振り返った成海の神経質そうな細い顎を持ち上げ、塞いだ。
下腹を撫で回したのが効いたのだろうか。
成海の腔内はとても熱かった。その熱く濡れた粘膜を舐めるのは、ひどく興奮する。
やわい舌を存分に味わってから口を離す。
「……っは……っ」
唇を離すと喘ぐように息を吸う様が物慣れないようで可愛い。
あまりの可愛いらしさに思わずニヤけた顔で見ていると、成海の視線がキッ、ときつくなった。
「や……約束と違うっ……」
そう言って、黒川のことを睨みつけるけれど、濡れた唇と赤く色づいた目元が可愛くて、申し訳ないが全然怖くはなかった。
「約束?」
成海の言葉を黒川はわざとらしく聞き返す。
「い……一回……っその……シたら……終わりって言ったっ」
そのわざとらしさに生来の素直さで気付くこともなく、成海は答えた。
「シたら? って何を?」
こんなときばかり年下の無邪気さで笑って追い詰める黒川。
「その……あの……ぇ……えっち……?」
睨みつけていた視線の勢いは削ぎ落とされ、真っ赤な顔で消え入りそうな声で成海は言う。
「ふは。えっちだって。かっわいー……」
もうこんなん、反則だって、と黒川は成海の首筋にぐりぐりと額を擦り付けた。
「お……お前が言わせたんだろっ……」
ようやくからかわれていたことに気付いて、離せよって突っ張るけど、そんな力じゃ退けることなんて出来ないって、この前ベッドの中で学んでないの?
「うん、そうだね。俺がいじわるして言わせたね。でも俺一回セックスしたら終わりだなんて約束してないよ。成海さんが勝手に一回シたら俺が飽きると思ってただけ」
ちゅう、とやわい首筋の皮膚を吸うと、さわりと成海の肌が粟立った。
それはセックス中にどうしようもなく感じてしまったときの彼の反応と全く同じもの。
「成海さん……忘れられるの? 奥に入れられたの、締め付けてイくの、すっげぇ気持ちよかったでしょ」
耳の奥の奥に、わざと情事を思わせる低く濡れた声を何度も何度も流しこむ。あの日、何度も何度も熱いものを流し込んだことを思い出させるみたいに。
絶対に忘れさせないよ。
「ひ……っぁ」
あぁ、ほら。またそんな可愛い声聞いたら、たまんなくなっちゃう……
「ね。成海さん。諦めて、俺のものになっちゃいな?」
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