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記憶の中で、誰かが笑って言う。
――約束だからね
何を約束したのか、いつ、誰としたのかは覚えていない。
それくらい昔の記憶だから、きっと小さい子供のときにしたものだろう。
ふと、掃除をしながらそんなことを考えていた。
もうすぐ私は家を出る。
親の言いなりで続けてきた芸能界。人気モデルになると意気込んでいたのもつかの間、子役でデビューしたが仕事はろくにこないまま、体は大きくなった。
オーディションは落ちるし、脇役でドラマに出ても次の仕事に繋がらない。
惨めな思いをして芸能界に居座るのはとても苦しかった。
だから、私は芸能界から引退した。
これからは一社会人として、普通の社会で生きていく。実家にいると、親に甘えて生活力も身につかない。だから家を出る。今はそのための片付けだ。
ひとつひとつ片付けていき、ずっと使っていた学習机の中も片付けていると、一つの手紙が出て来た。
『大人になったら開ける!絶対!』
濃い鉛筆で書かれているその文字は、私の字じゃない。誰だったっけ……
もう大人になってるし、開けてみることにした。
『これを読んでいるころにはきっと、大人になっていると思います。
悩んでいるかもしれないし、順調かもしれない。
どっちのときでも、この手紙を読んだその時、好きな人がいなかったら。
もし、仕事も大丈夫だったのなら。
僕と付き合ってください。
僕が必ず幸せにします。悲しませることもしません。
僕はずっと、貴方が好きです。自信満々に見えて一人で悩んでいるところを見ると、僕も一緒に悩みたいし、手助けたい。
貴方が幸せなら僕も幸せ。
貴方がどんな生活を送っていても、僕はずっと応援しています。
一生応援させてください。
返事を待っています。』
読んで思い出した。
手紙の送り主を。
ベッドの下に閉まってあった箱を取り出す。
中に入っているのは、貴重なファンレター。
端っこでしか映らない役しか貰えなかったのに、わざわざファンレターまで送ってくれる人がいた。
『テレビ見ました!
とても素敵な役で、輝いていましたね。』
『いつも頑張っていますね。かっこいいです!』
送り主の住所は書いておらず、どれにでも褒めてくれる内容が書いてあったから、心の支えになっていた。
そんなファンレターと、今回見つかった手紙の筆跡が同じなのだ。
同一人物からの手紙。
送り主はそう、私をずっと追ってくれていたあの人。
見つかった手紙にはご丁寧に電話番号が書いてある。
私はスマホをすぐとった。
「もしもし、私! 貴方に伝えたいことがあるの――」
――ありがとう
完
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