マイヒーロー

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
記憶の中で、誰かが笑って言う。 ――約束だからね 何を約束したのか、いつ、誰としたのかは覚えていない。 それくらい昔の記憶だから、きっと小さい子供のときにしたものだろう。 ふと、掃除をしながらそんなことを考えていた。 もうすぐ私は家を出る。 親の言いなりで続けてきた芸能界。人気モデルになると意気込んでいたのもつかの間、子役でデビューしたが仕事はろくにこないまま、体は大きくなった。 オーディションは落ちるし、脇役でドラマに出ても次の仕事に繋がらない。 惨めな思いをして芸能界に居座るのはとても苦しかった。 だから、私は芸能界から引退した。 これからは一社会人として、普通の社会で生きていく。実家にいると、親に甘えて生活力も身につかない。だから家を出る。今はそのための片付けだ。 ひとつひとつ片付けていき、ずっと使っていた学習机の中も片付けていると、一つの手紙が出て来た。 『大人になったら開ける!絶対!』 濃い鉛筆で書かれているその文字は、私の字じゃない。誰だったっけ…… もう大人になってるし、開けてみることにした。 『これを読んでいるころにはきっと、大人になっていると思います。 悩んでいるかもしれないし、順調かもしれない。 どっちのときでも、この手紙を読んだその時、好きな人がいなかったら。 もし、仕事も大丈夫だったのなら。 僕と付き合ってください。 僕が必ず幸せにします。悲しませることもしません。 僕はずっと、貴方が好きです。自信満々に見えて一人で悩んでいるところを見ると、僕も一緒に悩みたいし、手助けたい。 貴方が幸せなら僕も幸せ。 貴方がどんな生活を送っていても、僕はずっと応援しています。 一生応援させてください。 返事を待っています。』 読んで思い出した。 手紙の送り主を。 ベッドの下に閉まってあった箱を取り出す。 中に入っているのは、貴重なファンレター。 端っこでしか映らない役しか貰えなかったのに、わざわざファンレターまで送ってくれる人がいた。 『テレビ見ました! とても素敵な役で、輝いていましたね。』 『いつも頑張っていますね。かっこいいです!』 送り主の住所は書いておらず、どれにでも褒めてくれる内容が書いてあったから、心の支えになっていた。 そんなファンレターと、今回見つかった手紙の筆跡が同じなのだ。 同一人物からの手紙。 送り主はそう、私をずっと追ってくれていたあの人。 見つかった手紙にはご丁寧に電話番号が書いてある。 私はスマホをすぐとった。 「もしもし、私! 貴方に伝えたいことがあるの――」 ――ありがとう 完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!