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がんばれ! ぼたもち号
ぼたもち号は ながい廊下を はしっていき、奥の へやに すいこまれました。
さきがけくんが つづこうとするのを、ぎんやくんが はっとして とめます。
「なんだよ。ぼたもち号を みうしなうじゃねぇか。」
「だめ。そこは るりこの へや。おんなのこのへやに かってに はいっては いけない。」
「ふーん。じゃあ、しょうがねぇ。でてくるまで まってみるか。」
「うん。さきがけは ここで まっていて。おれは 庭のほうに まわるから。」
ふたりは 二手に わかれました。
これで、たとえ ぼたもち号が ふすまから まろびでたとしても、窓から とびでたとしても、みうしなわないことでしょう。
ですが、ぼたもち号はというと、ぎんやくんが 庭に かけつけるより ずっとはやく、濡れ縁に とびだしていたものです。
だれも みられないまま、ギュルギュルと はしりつづけ、さいしょの 広間のほうへ むかっていきました。
いっぽう、きょうさくさんには 来客が ありました。
左隣に すむ もくらい という お坊さんです。
もくらいさんは とけい町にある せいろう寺の 住職でした。
歳を とったからと 第一線を しりぞき、ひとり ひいらぎ町に こしてきたのです。
また、お坊さんながら 武闘派で、きょうも こしには 木刀を さしています。
きょうさくさんは もくらいさんのことが そんなに すきではありません。
「たのもう。」といわれても だまって 居間に ひっこんでいたのですが、もくらいさんのほうが みずから そこまで はいってきてしまいました。
そして、たいそう りっぱな 鱈を きょうさくさんに さしだすのでした。
「ぎんやくんと さきがけくんが 庭で 草かりやら 蔵そうじやら しているのが みえた。なんとも しゅしょうな ことではないか。これでも たべさせるがいい。」
「さっきは 独楽を まわして あそんでいましたよ。」
「わかいのだから あそぶのも 仕事のうちだ。きみも しっかり あそんで、腹をすかせて、たべて 精を つけろ。きみの おじいさんや おとうさんも よくよく たべる人だった。そうさな、鱈腹、というものだ。」
「亀の世話が あるので しつれいします。」
きょうさくさんは そそくさと いなくなってしまいました。
もくらいさんも かってに 鱈を おいて、かえろうとします。
そのときでした。
独楽の ぼたもち号が、いきおいよく もくらいさんめがけて とんできたのです。
もくらいさんは 目にもとまらぬはやさで 木刀を 一閃!
するどい 抜刀姿勢のまま、ピタリと 切っ先を とめました。
木刀の いちばん 先で、 ぼたもち号は あいかわらず くるくる まわっています。
でも、すこしだけ げんきがないでしょうか。
回転が ゆるやかになり、からだも くらくら ゆれているように みえます。
まわりつづけて、はしりつづけて、いよいよ もう だめなのでしょうか。
「ううむ。」
もくらいさんは、ぼたもち号の この姿に あはれを かんじたのかもしれません。
せいぜい 回転が やまぬよう、そうっと そうっと 切っ先を さげていきます。
そうして やさしく 地面に おろしてやってから、たちさっていきました。
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