がんばれ! ぼたもち号

1/1
前へ
/7ページ
次へ

がんばれ! ぼたもち号

 ぼたもち(ごう)は ながい廊下(ろうか)を はしっていき、(おく)の へやに すいこまれました。  さきがけくんが つづこうとするのを、ぎんやくんが はっとして とめます。 「なんだよ。ぼたもち(ごう)を みうしなうじゃねぇか。」 「だめ。そこは るりこの へや。おんなのこのへやに かってに はいっては いけない。」 「ふーん。じゃあ、しょうがねぇ。でてくるまで まってみるか。」 「うん。さきがけは ここで まっていて。おれは (にわ)のほうに まわるから。」  ふたりは 二手(ふたて)に わかれました。  これで、たとえ ぼたもち(ごう)が ふすまから まろびでたとしても、(まど)から とびでたとしても、みうしなわないことでしょう。  ですが、ぼたもち(ごう)はというと、ぎんやくんが (にわ)に かけつけるより ずっとはやく、()(えん)に とびだしていたものです。  だれも みられないまま、ギュルギュルと はしりつづけ、さいしょの 広間(ひろま)のほうへ むかっていきました。  いっぽう、きょうさくさんには 来客(らいきゃく)が ありました。  左隣(ひだりどなり)に すむ もくらい という お(ぼう)さんです。  もくらいさんは とけい(ちょう)にある せいろう()の 住職(じゅうしょく)でした。  (とし)を とったからと 第一線(だいいっせん)を しりぞき、ひとり ひいらぎ(ちょう)に こしてきたのです。  また、お(ぼう)さんながら 武闘派(ぶとうは)で、きょうも こしには 木刀(ぼくとう)を さしています。  きょうさくさんは もくらいさんのことが そんなに すきではありません。 「たのもう。」といわれても だまって 居間(いま)に ひっこんでいたのですが、もくらいさんのほうが みずから そこまで はいってきてしまいました。  そして、たいそう りっぱな (たら)を きょうさくさんに さしだすのでした。 「ぎんやくんと さきがけくんが (にわ)で (くさ)かりやら (くら)そうじやら しているのが みえた。なんとも しゅしょうな ことではないか。これでも たべさせるがいい。」 「さっきは 独楽(コマ)を まわして あそんでいましたよ。」 「わかいのだから あそぶのも 仕事(しごと)のうちだ。きみも しっかり あそんで、(はら)をすかせて、たべて (せい)を つけろ。きみの おじいさんや おとうさんも よくよく たべる(ひと)だった。そうさな、鱈腹(たらふく)、というものだ。」 「(かめ)世話(せわ)が あるので しつれいします。」  きょうさくさんは そそくさと いなくなってしまいました。  もくらいさんも かってに (たら)を おいて、かえろうとします。  そのときでした。  独楽(コマ)の ぼたもち(ごう)が、いきおいよく もくらいさんめがけて とんできたのです。  もくらいさんは ()にもとまらぬはやさで 木刀(ぼくとう)を 一閃(いっせん)!    するどい 抜刀(ばっとう)姿勢(しせい)のまま、ピタリと ()(さき)を とめました。  木刀(ぼくとう)の いちばん (さき)で、 ぼたもち(ごう)は あいかわらず くるくる まわっています。  でも、すこしだけ げんきがないでしょうか。  回転(かいてん)が ゆるやかになり、からだも くらくら ゆれているように みえます。  まわりつづけて、はしりつづけて、いよいよ もう だめなのでしょうか。 「ううむ。」  もくらいさんは、ぼたもち(ごう)の この姿(すがた)に あはれを かんじたのかもしれません。  せいぜい 回転(かいてん)が やまぬよう、そうっと そうっと ()(さき)を さげていきます。  そうして やさしく 地面(じめん)に おろしてやってから、たちさっていきました。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加