転落死した男について

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 三人の男は、四階の窓から外を眺め、呆然とした。  八月の中旬、日本では夏真っただ中の季節、三人は全開の窓から顔を出し、再び数メートル先に横たわる影を眺める。  「俺ら、やっちまったよ‥‥‥」  「ああ‥‥‥」  「どうしよう」  影の正体、スーツ姿の若い男は、革のブーツを履いた脚がおかしな方向に折れ曲がり、首もあり得ないところを向いている。  一目見て彼がすでに死んでいるということが分かった。  そして、彼を死に追いやったのは、他でもない彼ら三人だ。  死んでいるのは三好(みよし)という名の男。    窓から首を伸ばしている三人は、佐藤、鈴木、山田。  三好と彼ら四人は、高校の同級生であった。  彼らがいるのは、十階ほどもある細長い建物。その名も『三好タワー』。文字通り、これを建てたのは、たった今亡き人となった三好で、彼の別荘でもあった。  三好は巨万の富を持つ資産家で、質素な生活を送っている三人を久しぶりに三好タワーに招待したのだが、そんな中ささいなことから諍いが起こり、その結果三人が三好を担ぎ上げ、勢い有り余って全開だった窓から彼を突き落としてしまった、というわけだ。  「この建物には、今は雇人しかいないよな?」鈴木が不意に言う。「だとしたら、リスクが高すぎるか。どうするべきだ?」  「ちょっと待てよ」臆病な佐藤は言う。「し、死体を隠すってことか? 相手は世界的にも有名な資産家だぞ? それよりも、諦めて自首すれば——」  「いや」そこで口を開いたのが、窓を眺める山田。「雇人も、もう帰ったはずだ。車のタイヤ痕があそこに残っている」  「ってことは、今建物には‥‥‥」  「俺たちしかいない」
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