石炭型ロボット

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 石油、電気、水素、日光、バイオ燃料、窒素、ケイ素と、ロボット供給エネルギーは日々進化していく。  わたしは石炭型ロボット。粗大ゴミとして捨てられていたのを、ご主人様が拾ってくれた。 「懐かしい。昔を思い出す」  ご主人様は目を細め、わたしを連れて帰ってくれた。  こうしてわたしは、ご主人様に仕えることになった。わたしはご主人様に誠心誠意お仕えした。  ご主人様は古くて大きな屋敷に一人で住んでいる。  ご主人様には口癖がある。 「人など、信用できない」  ――だったらロボットのわたしは信用できるのですか?  そう聞いてみたいが、ロボットが質問するのは禁じられている。人間の心の領域に踏み入ってはいけない。ロボットは人間の指示に従うだけでいいのだ。  ある日掃除をしていると、本の山が崩れ、色褪せた写真がひらりと床に落ちた。  写真の中のご主人様はだいぶ若い。生真面目な顔をしたご主人様の隣には、同じ年ぐらいの女性と子供が二人映っている。  この三人は屋敷に住んでおらず、訪れることもない。この三人だけではない。広すぎる屋敷を訪れる人は誰ひとりとしていない。  ――ご主人様の孤独をわたしが慰めてあげたいです。  そう言いたい。けれどロボット化が進んだ時代だからこそ、人は人との繋がりを大切にすべきだと法律で定められている。  人間の生活を便利にするためにロボットは存在している。孤独を癒やすのは、ロボットの仕事ではない。  そうして人とロボットの関係性を保ちながら、わたしたちは(かび)臭く古い屋敷で十年のときを過ごした。  ご主人様は病気が進行し、起きあがれなくなった。 「ご主人様。会いたい人がいれば連れてきます」  ご主人様は庭に咲く椿を見ながら、長い沈黙ののちに、力なく首を横に振った。  すがりつく目で、わたしを見る。 「おまえはずっと、私の側にいてくれるか?」 「もちろんです。ずっとお側にいます」 「良かった……」  わたしにはご主人様しかいない。  ご主人様にもわたししかいなかった。      季節は何度も巡り、時間は止まることなく進んでいく。  わたしはご主人様の眠る墓に花を置く。  世界から石炭がなくなった。わたしは直に動きを止めざるをえないだろう。  わたしたちは約束した。 (おまえはずっと、私の側にいてくれるか?) (もちろんです。ずっとお側にいます)  わたしは動きが止まる最後の瞬間まで、ご主人様にお仕えする。  わたしはご主人様をひとりにさせない。ずっと墓の横にいて、ご主人様と一緒に朽ち果てるつもりだ。  ロボットには心がないという。それでもわたしは、痛みも幸せも知っているような気がした。
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