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仕事が終わって、オフィスの入っているビルのエレベーターで一階まで降りる。
私の働くビルには複数の会社が事務所を構えている。
まばらに人が往き来する中で、ふいに名前を呼ばれた気がして立ち止まった。
キョロキョロと回りを見回していると、
「村田先輩」
先程よりもはっきりした声で呼ばれ、その声色にドキリと胸がざわついた。
そこに立っていたのは、竹内くんだった。
「竹内……くん?」
「お久しぶりです」
「ほんとに、久しぶり。どうしてここに?」
「俺、このビルに入ってる会社で働いてるんです」
「えっ?!私もだよ。びっくり……」
十年経ったというのに、竹内くんは変わらずキラキラしていた。
あの頃よりも少しだけ大人びた顔にスーツがよく似合っていて、思わず口をついて出る。
「相変わらず、爽やかイケメンだね」
言って、ハッとなる。
竹内くんにこんな軽口を叩いたのは、いつ以来だろう。
「先輩、変わってないですね」
クスリと笑う竹内くんも、なんら変わっていなかった。
あの時と同じ爽やかイケメンで、そして大人の魅力を纏った優しい雰囲気。
「でもほんと、びっくり……」
「約束覚えていますか?」
「約束?」
「いつかきっとまた会いたいって」
「あ……」
朧気な記憶をたぐり寄せると確かに竹内くんはそう言っていた。
あれは約束だったんだ。
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