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何も言えないでいると、竹内くんは私の目の前にすっと握り拳を出した。
「?」
「先輩、受け取ってください」
何だろうと、そっと手を差し出すと、私の手のひらには1つのボタンが置かれた。
意味がわからなくてボタンと竹内くんを交互に見てしまう。
「俺の気持ちです」
竹内くんの、気持ち……?
そのボタンは紛れもなく学生服のボタンで、慌てて彼の詰め襟を見やれば第二ボタンだけがなくなっている。
え、まさか今渡されたこのボタンは竹内くんの第二ボタンなの……?
気付いた時には、私はボタンを押し返していた。
「ダメだよ!第二ボタンは大切な人にあげなくちゃ。私なんかがもらったら、竹内くんの彼女が可哀想だよ」
「先輩にもらってほしいんです。彼女なんていません」
「うそ……」
混乱する私に、竹内くんは強引に第二ボタンを握らせた。
「戸惑わせてすみませんでした。でも、このボタンはぜひ受け取ってください。思い出の一部としてでいいので。でもいつかきっと、また会いたいです」
どこまでもイケメン対応な竹内くんは、少し悲しそうな眼をしながらもニコリと微笑んで、そして後腐れなく去っていった。
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