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2022年12月30日
ドンドンドンドン。
俺は鈍く確かに響く音で目を覚ました。
上の階の奴が歩き回る音だ。いつも奴の出す音で眠れない。冷蔵庫を閉める音、物を落とす音、やけに通る笑い声。
頭上にある小さなデジタル時計を、仰向けのまま掴んで目の前に運ぶ。昼の12時過ぎ。4時間も寝られたのは、いつぶりだろうか。
ほんの少し冴えた頭をむくりと起こし、そのままテレビをつけた。
「では、この雨は、今後も降り続けるということでしょうか?」
「まぁ、その可能性はあるでしょうね。」
立っている司会者が、横に並んだ専門家らしき男達とやり取りをしている。
「先日発生した原発事故の影響ではないか、という声もあるようですが、これはどうでしょうか?」
「それは、何とも言えないですね。」
釈然としない応答にしびれを切らしたのか、一旦CMです、という短い知らせで専門家達は消えた。
世間によって早速「毒雨 どくあめ」と名前が与えられたこの雨は、世界中で降り始めたらしい。
最後に家を出たのは2週間前。無職の俺には何の問題もない。
この小説を書き上げたら今度こそ死のう。
そう心に決めたが、ペンを走らせてはぐちゃぐちゃと黒く塗りつぶす。原稿用紙はもう3枚しか残っていなかった。
小説家を目指して8年。誰の目にも留まることなく、俺の作品はぽろぽろと手から落ちていった。最初はインターネットの小説投稿サイトへ載せていたが、読者は多い日で5人。それも数年前の話だ。パソコンは買い替える金を貯める前に動かなくなった。
大学を出てからは細々とコンビニでフリーターをして食い繋いできたが、1ヶ月突然クビになった。女子高生のアルバイトが俺にセクハラをされたと報告が上がったらしい。
身に覚えがなかったが、死ぬのにいい機会だと思って辞めた。
雨粒が屋根を叩いて踊り回る。
噛みすぎて血の出た親指の爪を食み、俺はもう一度筆を走らせた。
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