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 東西に広く伸びた場所にリムステリア王国があった。    リムステリアには大勢の貴族がおり、その中の一つにボルニア家がある。    レレム湖と呼ばれる巨大な湖の辺りに居を構え、代々にわたり地を治めている。    ボルニア家が興された時、まだ男爵であった。    それが4代目の時に子爵へと陞爵(しょうしゃく)され、今に至る。    現当主のドナートは数えで6代目となる。    評判は上々で上級貴族達から一目置かれるやり手の領主であった。    ドナートはレレム湖の豊富な水源に目をつけ、これを活用して農畜産業に力を入れることを提案し実行させてみた結果 これが功を奏するものとなる。    貧しい階層の者たちが多かったボルニア家の領民達の生活は改善され、辺鄙な地にあるにも関わらず遠くより移住を希望するものが押しかける事態となった。    領民たちの数は今も爆発的に増えており、ドナートは日々業務に追われる毎日を過ごしていた。    そんな中、頭の隅にかねてより仕えているアニタの事がくすぶっていた。    先月、齢20になった彼女を騎士として叙任する儀式が行われるのだ。    ドナートには息子が2人いるが、幼い頃より面倒を見てきた彼女はドナートにしてみれば娘同然であった。  騎士たちの背中を追い続け数十年が経とうとしている。    物心がつく頃には自身も騎士となると夢描いていたが、ついに叶う時がきた。    アニタは厩に積まれた干し草の上に身体を預け、暫し天井をみつめていた。    叙任式を伝えられたのは2週間前。    未だ実感がもてぬが、ドナート様から直接お声がけを頂いた時は舞い上がりそうになってしまった。    騎士へと至る道は険しく、困難を極めるものが多かった。    とりわけ、礼儀作法に関しては大の苦手であったがアニタのような無手法を矯正するには必須であったようにおもえる。  「アニタ」  外から声が聞こえ、身を起こす。    決して暇をしていたわけではないが、服についた草を払い落とすと、何事も無かったかのような表情で表へと出た。 「やはりここにいたか」  呆れた目線の先にいるアニタに見せつけるかのようにため息を吐かれた。  小休憩をどう過ごそうかは自由なはずだが、わざわざアニタを探しにくるには訳があるのだろう。 「なにか御用でしょうか?」 「ああ。旦那様に頼まれて必要な物を買い揃えるよう頼まれていてな。確か……明日は非番だったな?」 「はい。休みを頂いております」 「よろしい。ならば、明日は俺と街へ行くぞ。馴染みの店があってな。そこで 買い揃える」 「は、はい。よろしくお願いします」  シュペルはそれだけ言うと、修練場へと再び戻っていった。  アニタは再び干草に身体を預け、胸のペンダントを見つめた。
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