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 稜線より陽が昇り、窓より差し込む光がアニタの顔を照らす。   仄かな暖かさと眩しさで一度寝返りを打ち、大きく伸びをした後に身体を起こした。   普段と変わらぬ目覚め方だが、昨晩、少々夜更かしが過ぎたのか寝足りず欠伸が止まらない。   とろけそうな眠気まなこのまま暫し呆け、シュペルの言葉を思い出した。 「街に行く準備をしないと」  声の方もまだ寝起きで上手く出せないがふらつく足で服を着替えた後、鏡の前で髪を整える。  納得がいくものにし、部屋を出るとちょうどシュペルとすれ違った。 「もう準備したか」 「あ、いえ。これから朝食を取りに行くところです」 「ああ、さすがにまだ早すぎるか。時間は伝えていたか?」 「いえ」 「それはすまない。そうだな……8時ごろでどうだろうか。場所は館の庭にし よう。馬は手配しておく」 「了解しました。では、のちほど」 「うむ」  シュペルの格好は普段通り騎士の正装そのものであった。  休日でも気を抜かぬ生活をおくる姿勢には敬意を表してしまう。 「あ、まて」  食堂を目指そうとした足を止められた。 「昨日伝えた通り街に行くといったが、一日では終わらぬかもしれん。念のた めに休日は二日申請しておいた。もし、一日で終われば次の日はお前の自由にしてもらって構わない」 「あ、ありがとうございます」  思わぬ幸運に心のなかで小躍りする。 「ではあとでな」  靴音を鳴らしながらシュペルは静かに去っていった。  朝食を済ませ、部屋に戻る。  長引く可能性を込めて替えの服等、改めて出発の準備を行う。  巾着袋に必要なものを詰め込んでいき、袋が大きく膨らんだところで入りき れずに床に落ちた本を拾い上げた。  何度も読み返している領主様に頂いた大事な本だ。  内容は騎士道精神について書かれており、今日のアニタに支えとなってきた。 「これはもっていかないとね」  詰める場所をなんとか作り、本が傷まぬように袋へ納めると集合場所を目指 して、宿舎を出た。  途中多くの先輩騎士とすれ違う。  みな顔つきは穏やかだが、いざ戦場に出れば顔つきが変わるのだろう。  アニタは戦場を知らぬまま生きてきた。  騎士になれば否が応でも馳せ参じなければならぬだろう。  自分が生きている間は争いがなければいいな、と淡い願望を懐きつつ手をあげてアニタを待つシュペルを見つけた。
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