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 子どもたちは村までの間、村について少し話をしてくれた。  新しい村長が決まったこと、赤子が3人生まれたこと。  土地の開拓者も増え、村の規模が気持ちばかり大きくなったこと。    アニタは無言のままシュペルと子どもたちの会話を耳で聞いていた。    子供は得意ではないが、日頃接することのない民からの情報は新鮮だ。    非番のほとんどの敷地内で過ごすアニタにとって外の世界にふれるのは久方であった。 「着きました」 「ありがとう、これはお礼だ」  スペシュは小袋から硬貨を数枚渡した。  少年がそれを受け取り不思議そうに見つめいたが、少女が慌てて奪い取りそれを驚いて慌ててかえす。  「い、いえ。これほどの額はいただけません」  「大した額ではないぞ。それにお前たちの会話も楽しかった。私からの感謝だと思って受け取って欲しい」  「わ、わかりました。ありがとうございます」    少女は弟たち全員に頭を下げるように言い、他の子たちも言われるがまま頭を深々と下げた。  「騎士様?」    村の入口で数人の大人たちとともに初老の男性が立っていた。    周りの者達と違い、ほつれのない服で小綺麗なものを着ている。    靴も木のものではなく皮製を履いており、背筋も気持ちよく伸びていた。  「わざわざ村までご足労いただきましてありがとうございます」  「街へ向かう途中に寄ったまでだ。すぐに出て行く」  「でしたらこれを。村でとれた麦を挽いたものです。領主様へは近々お納め致しますが、お越しいただいたお礼をさせてください」    村長がスペシュに手渡す前にアニタがそれを受け取る。    中ぐらいの麻袋だけが確かな重さを感じた。  「ありがとう。よろしく伝えておこう」  村を出て林に入る頃には陽は真上に達していた。   空腹感を覚え、二人は視界が広い場所を探し、くるぶし程度の高さの雑草が広がる野原に一本の木が生える場所を見つけた。   各々は反対側に座り、木陰を背もたれとする。 「アニタ。先程の麦の出来栄えはどうだった?」 「少し中身を見ましたが子供らが言っていた通り、上出来でしたよ」 「そうか。領主様も喜ばれるぞ」 「はい。私も嬉しいです」 「お前はこれで作るパンの事を考えてだろうが」  二人は笑いながら昼食をとりはじめる。  ちょっとした旅をしている気分でのどかな時間が過ぎていく。  青空をゆっくりと見つめるなんていつぶりだろうか。  雲の数を数えるなんて今までしたことなかった。  野原を通り抜ける暖かな風に身を委ね、静かに目を閉じていると少し眠くなる。 「あとどのくらいになりますか?」  茹でた卵を少しずつ食べながらアニタが聞く。 「あと数時間だな。夕方までには着く予定だ。なんだ、疲れたか?」 「い、いえ。なんだか楽しくて、つい」 「そうか。お前は外へ出ることなんて無いものな」 「はい。スペシュさんはよくあるんですか?」 「ああ。旦那様の言伝を触れ回るため村へ赴いたり、使いとして街へいく時も ある。騎士になればそういうのも仕事のうちだからな」 「私にも出来るでしょうか?」  旅と考えれば楽しいが、仕事となれば責任が伴う。  今は騎士の見習いという体なので深く考えずともよい。 「心配するな。最初は緊張するさ、誰でもな。ただ数回やれば不安がなくなり慣れが生じる。極度に恐れることはない」  先輩騎士の言葉にアニタは少し救われた気がした。
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