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5
林を抜ける頃、真上にあった陽はいつしか山の稜線間近までやってきていた。街道へ出ると旅馬車や隊商を組んだ幌馬車の一団と稀にすれ違う。
見慣れぬ服装の人々や見たことのない商品を荷台に積み込み、目的地へと向かう姿にここが外の世界だということを理解する。
「あそこだ」
今しがた超えた丘の先、スペシュが指さした所に大きな円環状の城壁が見え
る。出入り口に一つ、そして街の内側にも一際小さいものがぐるりと孤を描いており、街の中心には小ぶりだが城が立っていた。
「あれがベリナ……」
街だと聞いていたので村より一回り大きいものを想像していたが一つの都市に匹敵するその巨大さにアニタは驚きで小さくつぶやいた。
「後少しで夕暮れだ。暗くなる前にすすむぞ」
「は、はい」
目的地が見えた事で足が軽くなった気分で馬を走らせる。
すれ違う馬車の類はみなベリナを出発したものだったと気づく。
「通行証はあるか?」
ベリナの検問所の前で二人はガタイの良い門番に捕まっていた。
そこでスペシュはボルニア家のレリーフを見せた。
「なんだそれは。誂ってるのか?」
どうも門番にはこれがなにか理解できぬようであった。
「よく見ろ」
スペシュは首飾りを外し、門番に直接手渡したが全く分からないという表情でまじまじと見つめたままであった。
これでは埒があかないと、別の門番を探していると城壁のすぐ近くにある詰
め所から一人の門番が交替にやってきた。
やや疲れた様子で猫背の頼りなさ気な門番であったが、ガタイの良い門番が
持つレリーフが目に留まった瞬間、背筋が勢いよく伸びた。
「ボルニア家の騎士様ですか。今日は何用ですか」
「私用で立ち寄らせてもらった。中へ入りたい、良いか?」
「どうぞ。馬はこちらでお預かり致します」
門番はそう言い、二人の馬を丁重に連れて詰め所に併設された厩へと連れて行かれた。
「この馬鹿者!」
二人が街へと入る前、大声で怒鳴られる門番の姿が見え、少々気の毒に思った。
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