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 街へ入ると、アニタの目に多くの建物が入り込んできた。   大型の馬車2台分が通れる幅の石畳の道がまっすぐと伸び、左右には人々が住む住宅が一歩も道にはみ出すことなくせめぎ合いながら建て並ぶ。 「すごい」 「私もそう思う。旦那様はどうしてここを住まいとされないのか不思議だ」  ベリナはボロニア家領内で最大の街だと歩きながらスペシュが教えてくれた。  城について尋ねると、ドナートの叔父に当たる人物が住んでいるそうで、先代の当主の弟ということらしい。  滅多にここから出ることはなくその点はアニタと通ずるところがある。 「まあ悪くいえば隔離されているというべきか」 「え?」 「どうも自分が跡を継ぐとばかり考えていた方で、先代様が後継に選ばれた際 にこのベリナの街へと籠もられてしまった。先代様も何を仕出かすか恐怖を抱 いておられ、好都合とみてこの街を任せるていで封ぜられたという形だ」 「そんな経緯が」 「私達には関係ない話……ではないが、ほとんど気にしなくて良い内容だ。今 日ここを訪れることは伝えていないし、お前の武具を購入する算段をつけたら 帰ろうと考えている」 「確かにそれがいいですね」 「ああ」  ほどなくして道幅が狭い方へと折れる。  スペシュが言うには近道だというそこは居心地があまり良い場所ではなかっ た。  足元には太ったネズミが走り回り、生ゴミ臭い。  人の気配は無く陽の光も当たらぬ所謂、裏路地というやつだろうか。  靴裏に変なものでも踏んでないだろうかと心配しながら抜けた先に活気のあ る場所へとでた。  夕暮れ時だというのに人の波は絶え間なく続く。  灯を掲げた露天が隙間なく並び、様々な品が置かれている。 「ここは?」  甘い匂いや肉の焼けるような匂いに食欲を刺激されながらアニタが尋ねる。 「ベリナ最大の市だ。今日は遅いからここで飯でも買って宿へ向かう。金は 持ってきてるか?」 「え、ええ。多少なら」 「足りない分は遠慮なく言え。私が出す」  
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