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 アニタは市の屋台で適当に買い漁ると、静かな場所を探して街を歩いていた。   市から離れたというのに活気あふれる光がまだ輝いて見える。  あれほど人に囲まれたことは初めてのことで少々疲れてしまった。  どこか座れる場所があればと探せど、気軽に座れるような場所はない。  そのうちアニタは知らぬ間に路地へと迷い込んでしまったことに気づいた。  似たような建物が多いベリアの街ではアニタのような余所者はどうしても迷子になってしまう。 「スペシュさん?」  不安な声色を出しながらゆっくりと歩く。  もう空は夜の帳を迎えつつある。  何としてでも合流しなければならないが、ここは一体どこだ。 「スペシュさん!」  既に闇に飲まれた路地奥に無駄だと分かっていても声を投げる。  しかし少しアニタの声が反響しただけで風の通り過ぎる音だけが返事をして くれた。  いよいよもって夜を迎えるも未だ迷宮の出口は分からず仕舞いのまま、不意 に小石を蹴る音が聞こえた。  その方向を注視する。  声を押し殺し、腰に携える短剣に手をかけた。  靴底を擦る音が複数聞こえ、招かれざる客の到来を肌で感じる。  額から湧いた脂汗が頬を伝い顎へと到達して落ちる。  瞬きをする余裕もなく、アニタは覚悟を決める。  鞘から短剣を取り出しその時を待つ。 「まぁ待て」  しがれた低い顔が暗闇から聞こえてきた。  正体は現さず、アニタの動きを牽制するようにしてその場に留まっている用に思えた。 「別に襲うつもりはねぇ。たまたま通りかかっただけだ」 「何者だ」  女だと舐められるよう低い声で問いかける。 「ただの領民だ。殺気立っているようだが、まずは落ち着いてくれねぇか」 「ならば姿を見せろ。信用ならぬ」 「わかった」  すり足で現れた人物は想像よりも背の低い白髪の男であった。  右目の隈あたりに薄い傷跡があり、目元は垂れ下がっている。 「丸腰だ。何もしねぇよ」  両手の腹を見せ、敵意がないことを伝えてくる。  アニタはそれを信用し、短刀から手を離した。 「それでいい。お前、あのガキの連れだろ。探してたぞ」 「あのガキ?」 「ああ、確か名は……スペシュだったか。とにかく、俺についてこい。あいつがこの街にいるってことはたいてい俺に用事があるってことだからな」  男は手招きをしながら再び闇の中へと溶け込んでいった。
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