憎しみは黒く燃えて灰となる

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 ハッとして目が覚めた。  布団すら敷いていない硬いベッドの上で、壁にもたれかかりながら俺は眠っていた。  もう何年も横になっていない。  そんな平穏など俺には許されないのだから。    夢を見ていた。またあの夢だ。  幼少期に体験した俺の人生を左右するあの出来事。それが鮮明に再現された夢。  父親を目の前で殺され、俺は炎操者によって喉を焼かれた。それを指示したのは、俺が命をかけて復讐を誓った相手、レンドウ。  あれから十五年の月日が流れているが、一度もあの顔を忘れたことはない。  親を失い、施設に入れられてからもずっと孤独だった幼少期。喉を焼かれたために声は老人のようにしゃがれたものになってしまった。首元には火傷の跡を隠すように銀色の首輪を常にしている。  それを気味悪がって誰も近寄らなかった。  俺は一匹狼のように孤立していた。  いや、一人だけ無邪気に俺に話しかけてきた奴がいたな。俺と歳が同じぐらいの奴で、名前はもう忘れてしまったが。確か、そいつは渡り鳥のようにすぐに施設を離れていったっけ。唯一俺が言葉を交わした相手だったのかもしれない。   「リム、団長が呼んでる」  仲間の一人が俺を探し出してそう声をかけてきた。物思いに耽っていた俺は、ああ、と返事をして部屋を出た。  元々は監獄だったこの場所。  今はもう使われてはおらず、廃墟と化している。部屋の数だけはあって、寝床には困らない。  ここが俺たち『深淵(しんえん)』のアジトだ。  社会に対して不満を抱く者たちの集まり。自分たちの信念に基づいて行動を起こす。それが犯罪と言われるようなことも厭わず。  窃盗、放火、略奪、暴行、破壊、殺人。  どんなことでもやった。  力がある者だけが生き残る世界。  炎を操る力を持っていれば、それは当然のことながら優遇された。  俺は炎操者だ。だが、プロとしての資格を持っているわけではない。いわゆる、ならず者という奴だ。  世界には炎を操る特別な人間という者が多くいて、その才能が開花したとき、大抵の人は専門的な学校や養成機関へ通うことになる。  そこから十年以内に炎操者の本試験を受けて合格しなければならない。  それを過ぎてしまうと資格を取得する機会すら剥奪される。しかも、日常で炎を使用すれば犯罪者として逮捕されてしまうのだ。  勝手な話だ。政府は有能な炎操者を集めようとしているのに、才能がないことがわかれば爪弾(つまはじ)きにする。  納得できるわけがない。折角得た素晴らしい才能を彼らは自分たちの利益のためだけに封殺するのだから。  政府の中にはプロの炎操者によるエリート集団が存在し、彼らは国のために働いている。 『燎火隊(りょうかたい)』  表向きは市民を守るヒーローのような組織、だが実際には政府の犬だとも言われている。利権のためには暗殺さえも行う。  やってることは俺たちと何も変わらない。ただの偽善者の集まりだ。
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